新型コロナでホープツーリズム中止 震災教訓、伝え続けねば

2020/05/24 09:44

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オンラインでの視察受け入れを模索する菅野さん。後方は津波で甚大な被害を受け、震災遺構として整備される請戸小=浪江町
オンラインでの視察受け入れを模索する菅野さん。後方は津波で甚大な被害を受け、震災遺構として整備される請戸小=浪江町

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の被災地を巡る企画「ホープツーリズム」が新型コロナウイルス感染拡大の影響で実施できない状況に、関係者は「震災十年目の重要な時期に、教訓や復興を発信する機会が失われかねない」と懸念を抱く。「被災地の今を伝え続けなければ」。使命感を胸に、オンライン動画での交流など新たな取り組みで活路を探る。

 ■風化懸念、手法模索

 「被災地に理解を深めてもらうには、実際に現地に足を運び、肌で感じることが一番なのだが」。浪江町で被災地ツアーを手掛ける一般社団法人「まちづくりなみえ」の事務局次長を務める菅野孝明さん(50)は複雑な思いを口にする。

 被災地に児童生徒や大学生らの団体を受け入れ、学びの場を提供している。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、二月ごろからキャンセルが相次ぎ、三月から五月末まで受け入れそのものを中止した。

 ツアーは二〇一八(平成三十)年に始まり、年間約百~百四十件を受け入れてきた。震災の津波で甚大な被害を受けた請戸小や、原発事故による住民避難で家屋解体が進む街中などを案内し、町民らとの対話の場を設けている。

 川俣町出身の菅野さんは東京都内で進学塾を運営するなどしていたが、原発事故後、復興支援に携わりたいとの思いが強まり、二〇一二年十一月から町職員に転向した。津波と原発事故で人口が減少し、町に戻った住民の多くは高齢者。「将来の日本の課題が詰まっている」との思いがあった。被災地視察の受け入れなどを担い、二〇一八年に町が設立したまちづくりなみえに移った。

 「感染症の影響で被災地視察が減れば、震災と原発事故の風化が進むのではないか」。不安と危機感が頭をもたげる中、菅野さんはオンラインによるホープツーリズムに望みを託す。

 オンラインで被災地への学びを深める動画を提供したり、現地の“生の声”を伝えたりすることを検討している。学校との連携を想定した準備を進める。「子どもたちの心を動かす内容にしたい。今は訪れることができなくても、卒業後に福島に来たいと思ってもらえるように」と希望をつなぐ。

 ■オンラインに活路

 厳しい現状の中、インターネットを活用し復興状況を伝えようという動きは、県内で広がり始めている。

 原発事故で大熊町からいわき市に避難し、被災地の情報発信に取り組んでいる木村紀夫さん(54)。今月六日に予定していた町内視察ツアーを、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」でのリアルタイム配信に切り替えた。

 木村さんが町内沿岸部の自宅跡から配信し、震災当時の様子を語った。県内外から約六十人が参加した。木村さんは「臨場感を感じたという感想もあった。現場に来られない人に向けた活動を続けていく」と話した。

 福島大国際交流センターは今年、海外の学生を被災地に招く短期留学プログラムを延期した。これを受け、学生有志は会員制交流サイト(SNS)に県内の様子を撮った写真などを載せ、県内の復興の現状や魅力を発信する取り組みを強化した。

 マクマイケル・ウィリアム副センター長は「プログラムの延期に落胆してはいられない。コロナ収束後を考えて、今できることをしていく」と前を向く。

 ■「つながり保つこと重要」 立教大観光学部橋本教授

 東日本大震災後、県内をフィールドに風評被害や防災教育などを研究している立教大観光学部の橋本俊哉教授はホープツーリズムについて「被災地の復興にとってとても意義がある。新型コロナウイルスで実施が難しくても、(現地と学校などとの)つながりを保つことが重要」と強調する。

 橋本教授は「ツアーは参加者が被災地を身近なものとして理解できる。受け入れ側にとっても、被災体験を語ることは『心の復興』の大切なプロセスとなる」と説明する。

 感染症によるツアーの中止や延期について「被災地への関心を持ち続けてもらうためには、オンラインによる交流など現状でできることを考え、収束後にまた来てもらえるようにすることが大切」と指摘した。