トリチウム処理水 国民挙げての議論求む【風評の現場】(3)

2020/09/06 10:03

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「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の授賞式で表彰を受ける山崎さん(右)=東京・日本プレスセンター
「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の授賞式で表彰を受ける山崎さん(右)=東京・日本プレスセンター

 新型コロナウイルスの緊急事態宣言は解除されたが、原子力緊急事態宣言は継続している-。

 福島市在住の元高校教諭、山崎健一さん(74)=南相馬市原町区出身=は七月、東京都千代田区の日本プレスセンターで、集まった作家やジャーナリスト、評論家に訴えた。

 地域に根差した情報発信を続ける個人や団体を表彰する第二回「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」の優秀賞の受賞あいさつで、東京電力福島第一原発事故から十年目の思いを込めた。

 二〇一三(平成二十五)年、東京五輪を誘致する際、安倍晋三首相は東電第一原発の汚染水漏れを「状況はコントロールされている」と世界にアピールした。しかし、放射性物質トリチウムを含んだ処理水は増え続け、保管しているタンクを置く場所の限界が迫る。「処理水の問題が解決しなければ、廃炉は進まない」と警鐘を鳴らす。

 二〇一一年三月十一日、旅行先の長崎県で震災を知った。自宅のある南相馬市原町区は地震と津波で甚大な被害を受けた。旅先から横浜市の次男宅に身を寄せ、何カ所か経て、川崎市の借り上げ住宅に移った。

 川崎市で知り合った人に、被災地を案内するようになった。教員時代のようにわら半紙に手書きのプリントを作った。避難者や被災地の現状、放射性物質トリチウムを含んだ処理水の貯蔵タンクなど構内の現状を書き込み、案内の際に役立ててきた。福島市に移ってからもガイドとして五十回以上、延べ約千人に古里の現状を伝えた。

 トリチウム水の処分方法を絞り込むため政府が設けた小委員会は、海洋放出と大気放出が現実的とする提言を出した。県内自治体の首長や業界団体の関係者から意見を聞く会合や、文書による意見募集(パブリックコメント)が行われてきた。だが、情報発信が足りないと感じる。

 「どれだけの人が正確な情報を基に、自分のこととして考えているだろうか。汚染水は未来の子どもたちの生活に関係する。一人一人がもっと関心を寄せるべき」と問題提起する。

 教員生活四十三年間で、相双地方の六校に勤務し、このうち四校が震災と原発事故で統合や休校となった。教え子は約一万人に上る。各地に避難しても、何人かと電話やメールで近況を知らせ合っている。漁業や農業に関わる卒業生も多く、大変な苦労を重ねてきたのを知っている。

 解決の糸口が見えない汚染水の現状に、いら立ちが募る。「国民を巻き込んで、処理水について議論すべき」と願う。