トリチウム処理水 距離関係なく影響 福島県全体が一色に【風評の現場】(5)

2020/09/08 09:48

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本県の地図を見ながら震災当時を振り返る星さん
本県の地図を見ながら震災当時を振り返る星さん

 南会津町の田島ドライビングスクールを経営する星千津子さん(62)は、壁に貼ってある福島県地図を見つめながら、「あの時は、南会津もひとくくりにされ、福島県を一色に染められた」と九年前の苦い思いを明かした。

 大熊町と双葉町にまたがって立地する東京電力福島第一原発から南会津町までは、直線距離で約百十五キロ。原発を中心に円を描くと、北は仙台市、南は茨城県日立市が入る。それなのに、二〇一一(平成二十三)年三月、原発から遠く離れた静かな山あいの町にも風評が激しく吹き起こった。

 今、再び風評の懸念が広がる。福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を巡り、処分方法を検討してきた政府の小委員会が海洋放出と大気放出を現実的な選択肢とした。

 これに対し、南会津町議会は風評被害は避けられず、被災県民の心情や実情を無視したものとして意見書を可決した。

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 ドライビングスクールは、地元の若者だけでなく、首都圏から短期間泊まりで免許を取得する合宿生が受講する。割合は全体の八割を占める。

 原発事故発生時、五十人ほどが在籍していた。合宿生の家族から、「福島は大丈夫か」と心配の声が寄せられた。合宿生に不安なら帰るように促したが、大多数がとどまってくれた。心の底からうれしかった。

 東京都の仲介業者を何度も訪ね、安全性を説明して回った。新聞に掲載された南会津町の空間放射線量も毎日ファクスし続け、線量が低いことを訴えた。教習所の校舎内に福島県地図を貼り、第一原発から百十五キロ離れていると強調した。

 「転んでも起き上がるぞ」との思いで、大きな起き上がりこぼしを東京都の仲介業者に送ったこともあった。仲介業者への働き掛けや合宿生の口コミから受講生を確保し、前年に比べ一割減程度に抑えた。

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 現在、新型コロナウイルスの感染対策に全力を尽くす中、処理水の処分方法がどうなるかを心配する。浜通りで自動車学校を経営する同業者の仲間もおり、決してひとごとではない。

 「風評は目に見えない。だからこそ、目に見える形で、しっかりとしたルールや数値を示すのが大事になる。大気放出するのか、海洋放出するのかどちらにしても、国民に理解が浸透するまで根気強く説明する覚悟がなければならない。結局それに尽きる」