トリチウム処理水 安全と安心は違う 消費者の不安を断って【風評の現場】(6)

2020/09/09 09:52

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農産物の生産管理の徹底ぶりを示す安全認証制度「GAP」を取得した県産食材が並ぶ会場。県産食材の安全性発信に努めている=2019年9月、福島市
農産物の生産管理の徹底ぶりを示す安全認証制度「GAP」を取得した県産食材が並ぶ会場。県産食材の安全性発信に努めている=2019年9月、福島市

 福島市中町にある県消費者団体連絡協議会の一室に膨大な資料が並ぶ。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生以降の県民の消費活動記録や意識調査の結果が克明につづられている。

 事務局長を務める田崎由子さん(65)=福島市=は放射性物質に関する県民アンケート結果を見つめ、心の内を明かす。「震災と原発事故から十年目になっても、県民によっては安心の根拠となる情報が届いていないのではないか」

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 二〇一二(平成二十四)年度以降、風評や食に関する県民意識を調査してきた。八年間で延べ約九千人に、県産食材の購入意向など十項目程度を質問している。県内で放射性物質の検査体制が整い、県産食材に含まれる放射性物質の検査結果が積み重なっても、一定数の県民が県産食材の購入に二の足を踏む現状がある。「風評は根深い」と感じる。

 二〇一九年度調査で「健康影響が確認できないほど小さな低線量のリスクをどう受け止めるか」との設問に対し、「(食品衛生法の)基準値以内であれば、他の発がん性要因と比べてもリスクは低く、現在の検査体制で流通している食品であれば受け入れられる」が49・5%と約半数を占めた。次に「放射性物質以外の要因でもがんは発生するのだから、ことさら気にしない」が31・9%で続いた。

 一方で、11・1%が「基準値以内であっても、少しでも発がんリスクが高まる可能性があり、受け入れられない」と回答した。

 「科学的な安全の根拠を示されても、人によって異なる不安の『根っこ』の解消は簡単ではない」。原発事故による心理的影響の深刻さを指摘する。

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 放射性物質トリチウムを含んだ処理水の取り扱いを巡り、政府の小委員会の報告書は「海洋放出、水蒸気放出のいずれも放射線による影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」と記している。

 県産米の全量全袋検査は二〇一五年産以降、福島県沖の魚介類の検査で二〇一六年以降、それぞれ放射性セシウムが食品衛生法の基準値(一キロ当たり一〇〇ベクレル)を全て下回っている。県産米、魚介類ともに市場に流通し、多くの消費者に受け入れられている一方、不安を抱えている県民も少なからずいるのが現状だ。

 田崎さんは、県産食材の安全が科学的に証明されても、心理的な安心にはつながらないという構図は、処理水の問題に共通すると分析している。

 「安心を感じる尺度や時間は人によって異なるのではないか」

 政府は第一原発敷地内への保管が限界を迎えるとして、処理水の処分を急ぐような動きも見せている。県民の思いに寄り添ってきた経験から、政府の姿勢に疑問を抱く。