【検証 トリチウム水】国民への説明不十分 政府小委委員指摘 風評の懸念根強く

2020/10/19 08:12

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 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分方針を巡り、政府は海洋放出を軸に最終調整しているが、トリチウムの性質や処分方法などに関する国民の理解は十分に得られたとは言えないとの指摘もある。政府小委員会は報告書でトリチウムの性質などを詳細にまとめたが、国民に広く知らせようとする政府の姿勢は見られなかった。委員には処分開始による風評拡大を懸念する声がある。


 小委は二〇一八(平成三十)年八月の公聴会で国民からトリチウムを「危険」とする声があったのを受け、報告書に科学的根拠を列挙し「他の放射線や核種に比べて健康影響が大きいという事実は認められない」と記した。だが、政府が小委から報告を受けた今年二月以降、これらの事実を国民に浸透させようとする動きは鈍い。

 政府原子力災害現地対策本部長を務める江島潔経済産業副大臣は十六日の福島民報社のインタビューで、トリチウムに関する国民の理解が十分に及んでいない現状を認めた。江島氏は「正直言ってなじみがない。トリチウムとは何かを答えられる一般国民は本当に科学に精通した人ぐらいだろうと思う」との認識を示した。

 トリチウムが出す放射線は弱く、紙一枚でも遮断できる。国内外の原発や核燃料再処理施設からトリチウムを含んだ水は既に海洋放出されており、環境への影響は報告されていない。こうした事実を踏まえ、江島氏は科学的に正確に伝えればトリチウムは恐ろしいものではないと分かってもらえるとした上で、これまでの国の取り組みの甘さを認めた。「努力が経産省として十分でなかった点はあるかもしれない」

 一方、処理水の処分方法への理解も進んでいない。福島民報社が三月末から四月上旬にかけて県内五十九市町村の首長を対象に実施したアンケートでは、住民理解の不十分さが露呈した。処分方法の内容について住民の理解が深まっているかを尋ねたところ、四十五市町村長が「深まっていない」「どちらかと言えば深まっていない」と回答した。

 浜通りの首長の一人は「深まっていない」と答え、「住民の不安解消となる情報の発信が不十分」を理由に挙げた。「深まっている」はゼロで「どちらかと言えば深まっている」は一村にとどまった。

 政府は小委がまとめた報告書に対応するため、浜通りの市町村議会を中心に処理水の性質や処分方法についての説明に出向いたが、一般の国民向けに説明する機会は設けなかった。

 小委は委員の意見を踏まえ、「全ての人々の不安が払拭(ふっしょく)されていない状況では、処理水を処分した場合に、風評被害を生じうることは想定すべき」と指摘している。処理水処分による風評を防ぐためには国民全体の安全性に関する理解が不可欠だ。

 会津地方の食品販売員の女性(64)は「トリチウムについてよく知らないので、放射性物質と聞くだけでこわい。本当に安全なら風評は起きないはずで、他県でも処理水を受け入れられるのではないか。国は国民一人一人が納得できるような分かりやすい情報発信に努めるべきだ」と訴えた。