【検証 トリチウム水】具体的な風評対策を 福島県内の生産者、再燃懸念

2020/10/21 07:57

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 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含んだ処理水の処分を巡り、政府が海洋放出を軸に最終調整していることに対し、県内の生産者は新たな風評を懸念し、国や東電に納得できる対策の提示を求めている。原発事故発生から九年七カ月余りが過ぎたが、県産の農林水産物の価格や販路は完全に回復していない。政府は処分方針の決定と同時に具体的な風評対策は打ち出せないとしており、生産者からは「具体的な内容がなければ、風評が再燃し、またゼロからのスタートになってしまう」と切実な声が上がっている。

 江島潔経済産業副大臣兼原子力災害現地対策本部長は福島民報社のインタビューで、処理水処分による風評について「全く未知の領域で、どの程度、どういう範囲でどれくらい続くかも含めてまだ経験していない」と想定が困難である点を強調した。その上で、対策を「今は全部パッケージで示すことはできない」との見解を示した。

 政府は処分方針の決定と合わせ、科学的根拠に基づく情報発信の強化や農林水産業への支援拡充、被害に応じた適切な賠償など対策の方向性を示す見通しだ。しかし、県民がこれまで苦しんできた風評の払拭(ふっしょく)に直結する具体的な対策の中身については見通しが立っていないとみられる。

 原発事故発生後、県漁連は海域や操業日を制限する試験操業を続けてきた。全四十三魚種、四十四品目の出荷制限が解除され、来年四月の本格操業開始を目指す方針だ。いわき市の薄磯採鮑組合の鈴木利美さん(67)は「これまでの地道な努力が無駄になる」と海洋放出への反対を訴える。「今も風評に苦しむ漁業者らの意見をしっかり聞いた上で、処分方法を検討してほしい」と求める。

 農家からも風評再燃への懸念の声が上がっている。会津坂下町でコメやリンゴを栽培する加藤康明さん(44)は「処理水の科学的な安全性が国内外に十分に伝わっていない状況で海に流せば、風評が再び広がってしまう」と対策の不十分さを指摘する。

 加藤さんは都内で県産農畜産物の安全性をPRした際、県外の人の理解を得るのは相当難しいと痛感したという。「生産環境と産品の安全性が十分に理解されないうちは、福島の農林水産物は価値に合った金額で買ってもらえない」と危機感を募らせる。

 県北地方の果樹園は昨年の台風19号による水害に加え、今年はモモせん孔細菌病が流行し、大きな被害が出ている。国見町でモモやカキを栽培する鈴木耕治さん(69)は今年のモモの収穫量が例年の四割程度にとどまったと明かす。

 原発事故発生後に下落した価格が、新たな風評が起きれば再び下がりかねないとみている。「農産物の買い控えが起きた場合の対策も提示してほしい」と訴える。