偏見への不安拭えず 地域の魅力再生に努力 【復興を問う 帰還困難の地】(38)

2020/12/18 07:59

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有
組合長を務める野行農業生産組合で農地の再生方法を話し合う半沢さん(左)
組合長を務める野行農業生産組合で農地の再生方法を話し合う半沢さん(左)

 東京電力福島第一原発事故に伴い、葛尾村で唯一、帰還困難区域となっている野行(のゆき)行政区に自宅を構えていた元村職員の半沢富二雄さん(67)は、避難指示解除後の偏見を懸念する。「(解除されても)帰還困難の地であったことに変わりはない」。古里に戻って生活しても風評や周囲の視線を気に掛ける日々が続くのではないかとの不安が拭えない。

 数年前、半沢さんは避難先で心ない会話を耳にした。「帰還困難区域だから賠償金を多くもらって裕福な生活をしている」。周囲から冷ややかな視線を注がれ、疎外感を味わったこともある。「一部の人には、古里を追われた苦しみを理解してもらえないのかな」。苦い思い出は、今も心の隅に染み付いている。

 偏見をなくしたい-。そのために、原発事故前よりさらに魅力ある地域にする必要があると考えている。盛んだった農業を再生させようと、組合長を務める野行農業生産組合で、所有する約二十五ヘクタールの農地の再生方法や避難指示解除後の在り方を定期的に話し合う。「農地をどう整備すべきか」「農機具の購入を検討しよう」。古里を思い、議論に熱がこもる。

 伝統芸能の復活にも奔走する。野行地区に大正時代から伝わる村無形民俗文化財「宝財踊り」を継承しようと、保存会の会長を担い、村民に踊りを伝える取り組みを始めた。原発事故発生後、一度も披露されていない踊りを実施するため、村の子どもたちに踊り方を教えている。

 「農畜産業や伝統芸能の復活が村に活気を呼び戻す」。そう信じて活動に励む。村も後押ししている。地域の営みを消さないよう村や住民が努力を重ねる。

 野行行政区は国が二〇二二(令和四)年春ごろまでの避難指示解除を目指し、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の整備を進めている。半沢さんは生活環境を整えるだけでなく、偏見や差別をなくす取り組みも必要だと訴える。葛尾村では野行行政区だけが帰還困難区域として取り残された。そのため、区域内外の人々の良好なつながりを築かなければ、村内で分断が生じかねないと懸念する。

 原発事故前、野行行政区は住民同士の結び付きが強い地域だった。顔を合わせればあいさつを交わし、世間話で盛り上がる。半沢さんはそんな穏やかな日常が戻ってくることを強く願う。「野行でまた、平凡な普通の暮らしがしたい。国は最後まで責任を持って復興を進めるべきだ」