【処理水問題】基本方針の再考を(5月14日)

2021/05/14 09:24

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 東京電力福島第一原発で増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水を敷地内から海洋放出する国の基本方針決定に対し、県民の多くが疑問視していることが明らかとなった。福島民報社と福島テレビが共同で実施した県民世論調査で、基本方針を支持しているのは二割弱にとどまり、海洋放出によるさらなる風評発生への懸念が四割を超えた。政府は基本方針を再考すべきだ。

 調査は八日、県内全域を対象に市町村の人口の割合に合わせて家庭用電話にダイヤルする方式で実施し、七百十七人から完全回答を得た。決定に対する受け止めの問いで「政府の方針通りにすべき」と回答したのは18・0%だった。現状では漁業者ばかりでなく、県民の多くが決定された基本方針の内容を受け入れていないといえる。

 最も多かったのは「政府は国民に丁寧に説明し、理解を深めた上で決定すべき」で32・1%、次いで「福島のみの放出は認められない」が25・2%、「トリチウムの分離技術の開発を継続すべき」が11・9%、「原発敷地内でタンク保管を継続すべき」が6・4%と続いた。政府は専門家らで構成する小委員会の議論を踏まえて基本方針を決めたというが、小委員会のメンバーからも海洋放出は結論ありきだったとの指摘が出ている。決定に至る手順や、この間の政府の無策ぶりへの不満が表れた結果ではないか。

 海洋放出による懸念の問いでは、「新たな風評の発生」が40・9%で最も多く、「県民への偏見・差別」が18・1%、「県内産業の衰退」が12・1%、「健康被害」が11・0%だった。菅義偉首相は基本方針を決定した閣僚会議で「政府が前面に立って処理水の安全性を確保するとともに、風評払拭[ふっしょく]に向けてあらゆる対策を取る」と表明したものの、さらなる負担を被るのではないかという県民の懸念は払拭されていないとみるべきだろう。

 調査では、現時点での処理水に関する国民の理解が深まっているかも聞いた。「さほど深まっていない」が37・9%、「まったく深まっていない」が32・8%で、合わせると七割を超す。「とても深まった」「ある程度深まった」の合計は23・3%で四人に一人にも満たない。政府は海洋放出までの約二年間で国民に理解を求める活動を展開し、風評対策にも万全を期すとしているが、現在の世論にどう応えるつもりか。県民と向き合い、徹底した議論を重ねてこなかった政府、東電の責任は重い。(安斎康史)