戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第2部・林業(8) 担い手不足に拍車 「国が対策強化して」

2022/01/03 09:54

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原木の放射性物質検査に関する書類を見つめる真名畑林業の菊地さん
原木の放射性物質検査に関する書類を見つめる真名畑林業の菊地さん

 東京電力福島第一原発事故は古里の林業に深刻な打撃を与えた。放射性物質が降り注いだ山林の除染はほとんど手つかずのまま。木材価格の下落に加え、事故から十年十カ月近くたっても住民らには放射線への不安が残り、林業関係者は人手不足にあえいでいる。地域の林業の現状を追う。

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 「放射性物質の付いたものを落としていくんじゃない」。東白川郡森林組合参事の金川喜久さん(65)=塙町=は、数年前に住民が発した言葉が耳に残っている。

 東白川郡内の山から伐採した原木をトラックで運ぶ際、地面に落ちた木の皮について指摘を受けた。「いまだにそのように思う人がいるのか」。金川さんは原発事故の影響の根深さを痛感した。

 県内の森林の空間放射線量は原発事故直後に上昇したが、時間の経過とともに減少している。県が継続的に調べている県内三百六十二地点の平均線量は二〇二〇(令和二)年度調査で〇・一八マイクロシーベルトとなり、二〇一一(平成二十三)年度から八割程度下がっている。

 県は原木の伐採や搬出について、伐採地の空間放射線量が毎時〇・五〇マイクロシーベルト以下であれば実施可能との基準を設けている。金川さんが住民から指摘されたのは、県の基準値以下の森林で伐採した原木の皮だった。

 森林の放射線量を巡っては、林業従事者の被ばく低減が課題に挙げられた時期もある。金川さんは林業の未来を憂える。「口に出す人は少ないが、(潜在的に)放射線への不安を持っている人はいる。それが林業の担い手減少に影響しているのならば残念だ」

 原木の素材生産量が二〇一八年調査で県内一位の塙町にある真名畑林業は、国有林を中心に事業を手掛けている。

 販売先は九割超が県内だが、県外の一部の事業者に販売する際には、原木の木くずの放射性物質検査結果を添付している。取引先が提出を求めているためだ。こうした対応が事故発生から十一年になろうとしている今も続いている。

 林業の担い手不足の要因は、仕事の大変さや木材需要の低下などと言われる。社長の菊地正人さん(61)は原発事故による影響も上乗せされているのではないかと考えている。「福島県の林業人材の確保に向けた対策を強化してもらいたい」と国に強く求める。

 古里の山を守り、育てるには担い手の確保が急務となっている。


■人材の育成が急務 新規就業者3分の1

 県内で新たに林業に就業する人は東京電力福島第一原発事故発生後、減少傾向にあり、事故発生後の十年間で三分の一の水準まで落ち込んだ。県内の新規林業就業者の推移は【グラフ】の通り。原発事故発生前の二〇一〇(平成二十二)年は二百四十二人だったが、二〇一一年から減少に転じ、二〇二〇年には七十八人となった。十年前の32・2%しかいない。

 こうした現状に危機感を抱いた県は四月、郡山市安積町の県林業研究センター内に「林業アカデミーふくしま」を開設し、現場作業や森林経営を担う人材の育成を始める。原発事故の影響で森林整備が滞る中、県は人材を育てる体制強化が不可欠と判断した。

 高卒以上の林業就業希望者向けの長期研修と、市町村職員や林業従事者向けの短期研修がある。長期研修は一年制。郡山市の施設で林業に関する知識や技術を学ぶほか、山林にある実習フィールドで実践力を身に付ける。施設には研修棟や実習棟、林業機械の模擬操作ができるシミュレーター室などが設置される。

 長期研修には、推薦選考と一般選考の各試験で定員上限の十五人が合格した。四月から一年間の研修を開始する。

 県は研修期間終了後、県内の森林組合や林業関連会社などの林業事業体への就職を促す。県林業振興課の担当者は「長期間にわたって林業に従事する人材の育成に努める」としている。

 原発事故発生後、山林の除染はほとんど手つかずの状態で、林業の担い手不足に拍車を掛け、森林の荒廃が懸念されている。