戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―

【戻せ恵みの森に ―原発事故の断面―】第4部 鳥獣被害(28) 広域的な対策必要 山や森境界をまたぐ

2022/04/17 17:18

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サルの生息域調査でアンテナを広げる支援員の石井さん
サルの生息域調査でアンテナを広げる支援員の石井さん

 「うーん。いないですね」。三月上旬、南相馬市と浪江町の境界付近で軽ワゴン車を走らせながら、県避難地域鳥獣対策支援員の石井憲吉さん(46)がつぶやく。浪江町の依頼で追っていたのはサルの群れだ。南相馬市南部と浪江町北部周辺の山や森に生息し、浪江町では農作物の被害や住民への威嚇行為が報告されている。

 捕獲して発信器を取り付けたサルを放し、信号を元に移動経路などを特定する。接近すると車に搭載した無線機にノイズが入り、大まかな位置を割り出す。この日の調査で群れは確認できなかった。支援員の鉄谷龍之さん(36)は「避難区域が設定された地域は除染や復興事業などで環境が刻々と変わり、動物の生息域にも影響する」と話す。

 環境省が捕獲事業を進める帰還困難区域を除き、鳥獣対策は各市町村が担っている。ただ、野生動物は境界をまたいで動くため、県と市町村による広域的な対策が進められている。

 県避難地域鳥獣対策支援員はこうした地域を支援するために二〇一八(平成三十)年度に設置された。浪江町と富岡町の役場内に一人ずつ配属していたが、避難指示の解除などを受けて増員した。二〇二〇(令和二)年度に富岡町に拠点を設け、専門的な知識や経験を持つ六人が常駐する。全国でも珍しい取り組みだ。

 支援内容は多岐にわたる。住民や市町村職員に電気柵の設置方法を教えたり、現場を調べたりする他、動物の生態や対策に関する研修会も開いている。生態調査も行い、集めた情報は各市町村に提供する。

 鉄谷さんは対策のポイントについて、(1)鳥獣の定着や繁殖を防ぐ「環境整備」(2)柵などで侵入を防ぐ「防除」(3)捕獲や駆除による「個体数管理」を挙げる。「行政や住民、狩猟者単独ではできない。地域一体で対策を進めていく必要がある」と話す。

 ただ、避難区域が設定された十二市町村では復興業務に人手を取られ、専門的な知識を持つ職員は少ない。各自治体の境界付近での共同対策は本格的な実施に至っておらず、連携が欠かせない。

 避難区域から野生動物が生息域を広げている恐れがある。特にイノシシの捕獲数が急増している。