子どもの命どう守る 児童虐待 問われる関係機関の連携 福島県いわき市の事件、子どもが逃げ出し発覚

2022/05/15 09:54

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 家庭内の深刻な児童虐待事件が全国で相次ぐ中、警察と児童相談所(児相)など関係機関の連携が問われる例が少なくない。被害を受けている子どもが公的機関に声を上げることは難しく、表面化しにくいのが実情だ。福島県いわき市で3月に起きた事件は、被害児が親元から逃げたことで明るみに出たが、捜査関係者からは「一歩間違えば命に関わる危険があった」と早期発見、対応の必要性を指摘する声が上がっている。(福島民報取材班)

 いわき市の事件では小学校低学年の娘(当時8歳)、修学前の息子(当時6歳)への傷害容疑で母親(当時30歳)が逮捕された。きょうだいが自宅から親族宅まで約3時間かけて歩き、助けを求めたのが捜査の端緒だった。

 捜査関係者や親族によると、母親はいわき市出身で、県外で結婚して2児をもうけた。数年前に子どもと共に実家に戻ったという。

 2月上旬、環境が一変した。母親が前夫とは別の男(当時32歳)と親しくなり、市内の借家に移り住んだ。近所に住む女性は「(事件が発覚する)3月中旬ごろまで怒鳴り声や子どもの泣き声が時折り、聞こえていた」と話す。

 きょうだいは3月16日午後、母親と男の外出中に自宅を出て、10キロほど離れた親族宅を目指した。親族によると、2人が着いた時、辺りは暗く、娘は全身にあざ、息子は顔に殴られた跡があった。

 親族からの通報を受け、福島県警いわき南署は娘の顔を殴ったとして17日に母親を逮捕。4月11日に息子に打撲を負わせたとして再逮捕した。捜査の過程で、娘にけがをさせたとして交際相手の男も逮捕した。母親は「しつけのつもりだった」などと供述したという。

 関係者によると、きょうだいは前の居住地で、地元児童相談所の支援を受けていた。母子3人の情報は、いわき市を管轄している浜児童相談所にも伝わっていたという。事件前後の一家への対応について浜児相は「個別事案の詳細は明かせない」としている。親族によると、きょうだいは事件を受けて一時保護された。

 「顔や体のけがが忘れられない」。きょうだいとかつて一緒に暮らした親族は、逃げてきた2人の姿を思い返す。「なぜ、こんなことになったのか」。戸惑いは消えない。

 児童虐待問題で被害児の死亡など重大事案が起きた際、関係機関の連携不足や深刻化リスクの過小評価がたびたび議論されてきた。今回の事件でも、幼い子どもが親族を頼るまで、県警は異変を認知できなかった。


■模索続く対応

 社会問題化する児童虐待の防止に向け、国や自治体は関係機関の情報共有や、初動対応を模索してきた。子どもを虐待の環境から救い出すために、専門家は関係機関の一層の連携強化を促している。

 厚生労働省は2016(平成28)年、児童相談所を置く自治体に対し、虐待事案について警察との情報共有の徹底を通知。県と県警も2018年に情報共有に関する協定を結び、2019年度から各児相に警察官らを配置するなど互いの情報を生かす仕組みを整えてきた。

 県警が昨年、虐待の疑いで児相に通告した18歳未満の子どもは1366人で、統計のある2000年以降で最多だった。県警本部少年女性安全対策課によると、各警察署は虐待の疑いがあれば「軽微な例も含めてほぼ全件」を児相に通告している。通告増は連携強化の表れだが、児相には学校や医療・福祉、親族、近隣住民などからも相談や通報が寄せられる。

 県内の児相が2020年度に扱った児童虐待相談は1871件で、前年に次いで2番目に多かった。県警内には対応案件が多いにもかかわらず、「児相からの情報が事件につながる例は多くない」と感じる声もある。


■警察と児相、認識に相違

 県によると、児相が相談・通告から虐待の恐れを認めた案件の多くは在宅での経過観察となる。対象世帯には緊急性に応じ、児相職員らによる訪問面接や一時保護、児童養護施設への入所などの措置が講じられる。

 児相はこの過程で、対象世帯の生活状況など重要な私的情報を多く扱う。個人情報保護の観点から、情報の管理や外部提供には慎重さが求められる。県児童家庭課は警察に情報提供する基準を「危険性や緊急性に応じ、児相所長が必要と判断した場合」と説明する。

 個人情報の取り扱いに加え、警察と児相の虐待問題への姿勢の違いが情報共有を阻む一因との見方もある。児相が親子関係の修復や継続性の確保に軸足を置く一方、警察は暴力など児童の目の前にある危険の排除を重視する。こうした違いがリスク評価や緊急性の認識・対応の相違を生むとの考えだ。

 虐待問題に詳しい福島学院大福祉学部こども学科主任で子育て支援センター長の細川梢さん(37)は、警察も児相も「家族の幸せを守るという目的は共通」とした上で「互いの組織や職種の役割を尊重しながら、問題解決に何が必要か考える意識が重要」と話す。合同研修などを通して「顔の見える関係」を築く必要性を説いている。