避難所「誰もが安心できたら」「生活空間や食事改善、衛生面改善を」記者が福島県田村市で宿泊体験

2022/07/04 09:29

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有
避難用テントを設営する参加者
避難用テントを設営する参加者
藁谷さんが勧める夏の防災用品
藁谷さんが勧める夏の防災用品
福島県防災士会の藁谷俊史さん
福島県防災士会の藁谷俊史さん

 全国で近年、大規模な自然災害が相次いでいる。県内は2019(令和元)年10月の台風19号、今年3月の福島県沖を震源とする最大震度6強の地震などで大きな被害を受けた。万が一の事態では避難を余儀なくされるケースも生じる。田村市が2、3の両日、市総合体育館で開いた避難所宿泊体験に参加し、避難所の現状や課題を探った。

 体育館で一夜を過ごし、プライバシーの確保や食事などの面で、避難者が不便を感じないよう環境整備が進んでいると実感した。一方、さまざまな家族構成の人々が心労を抱えずに過ごすために改善すべき点も見えた。

 避難者にはテントか、ついたてで仕切られた区画が割り当てられた。感染症対策の観点からゆったりとした配置となっている。テントの設営は一人では難しいが、複数で協力すれば5分程度で完成する。内部に段ボールベッドを組み立て、生活空間を確保できた。

 夕食は、炊き出しのご飯と市が備蓄するレトルト食品だった。肉じゃが、サバのみそ煮、ハンバーグなどメニューは豊富だ。

 午後11時を回ると、体育館の明かりが消えた。物音を立てれば他の人に迷惑になると気を使う。荷物をちょっと動かすのも気が引けた。他の参加者も同じ考えだったのだろう。辺りは一気に静けさに包まれた。

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の発生時、私は富岡一小の5年生だった。富岡町から家族で川内村などに避難した。避難先の体育館では大勢が床に毛布を敷き、雑魚寝していた。お年寄りや乳幼児を連れた人たちには過酷だっただろう。それに比べ、現在の避難所は過ごしやすい。

 ただ今回、生後6カ月の子どもを連れて参加していた夫婦は、「夜泣きすれば、周囲に迷惑をかける」と語った。哺乳瓶の洗浄など、衛生面で不便があったとも指摘する。体育館内にはメインアリーナの他にもサブアリーナや多目的室がある。「乳幼児連れの家族」「高齢者」などに一般向けと分けて開放し、誰もが安心して過ごせる環境をつくるべきだと感じた。市幹部は「避難者の属性に応じてエリア分けをするなど対応を考えたい」と語った。

 体育館は冷房が効き、シャワーもあった。だが、どの避難所にも備わっているとは限らない。停電や断水が起きれば、猛暑で心身ともに疲弊しただろう。真夏や真冬の避難にどう対処するか、自治体と住民がともに考えなければならない。


■浸水時の避難は長靴よりスニーカー、まずは防災ポーチの用意を 福島県防災士会の藁谷さんに聞く

 大雨の被害が懸念される時期になった。命を守るためには、どのような準備や行動が必要なのか。福島県防災士会理事の藁谷俊史さん(55)に聞いた。

 ―災害にどう備える。

 「気象庁がインターネットで公表している洪水や浸水の危険度予測『キキクル』や、住んでいる地域の浸水被害を検証できる国土交通省の『地点別浸水シミュレーション検索システム』などを通し、事前に情報を集める意識を持ってほしい。スマートフォン向けの防災アプリでも被害を予測できる。普段から身近な地域を歩いて危険箇所や避難経路を確認してみてはどうか」

 ―スマホやネットに不慣れな人はどうすればよいか。

 「停電する前であればテレビのデータ放送から、行政が出している最新の情報などを得られる。日頃から近所の人と交流し、自分の災害時の心配ごとを伝えておくことも、いざという時の安心材料になる」

 ―避難を始めるタイミングはどんな情報をもとに判断すればよいか。

 「災害弱者とされる高齢者や障害者、山沿いや川の近くなど災害に巻き込まれやすい場所に住んでいる人は『警戒レベル3』の段階で避難を始めるべきだ」

 ―避難すること自体に抵抗がある人もいる。

 「自然災害の前ではまず逃げることが鉄則だ。避難は自身の身を守るための行動であって、結果的に空振りになっても恥ずかしがる必要はない。数万年に一度という災害が相次いでいる現状を考えれば、『昔から被害の少ない地域だから逃げなくても大丈夫』という思い込みも禁物。自分の知識や経験だけを頼りに、自宅にとどまるという判断をするのは危ない。逃げるのをためらった結果、捜索や救助に携わる人まで危険にさらしてしまう恐れもある。ためらわず、早めの避難を心掛けてほしい」

 ―避難をする際にどんなことを注意すべきか。

 「家の外の状況を確認した上で、より安全な別の場所に移動できる場合は避難所などへの『水平避難』を考えてほしい。『既に浸水が始まっている』など移動が難しい状況になっている場合は、自宅の2階などに逃げる『垂直避難』も選択肢の一つだ。時間とお金に余裕がある人は大雨の予想や台風の進路から外れた遠方の親族を頼ったり、ホテルに宿泊したりする『広域避難』も考えてほしい」

 ―水平避難ができる水位の目安は。

 「歩いて逃げる場合は自分の膝下まで、自動車を使う場合は道路の縁石の高さが目安になる。縁石の高さは一般的には20センチ程度なので、地面から25~30センチの高さにある車のマフラーが水をかぶらないかを判断する材料になる」

 ―浸水した道路を歩く時は何に注意すべきか。

 「長靴は中に水が入ってしまうと歩きにくくなる。スニーカーのほうがいい。雨具は傘ではなく、両手を自由に使える雨がっぱが望ましい。浸水した道路では路面と側溝の境目が見えにくく、側溝に落ちてしまう危険もある。避難所までの道路の状況を普段から確認しておく必要がある」

 ―自動車で逃げる場合の注意点は。

 「線路下を通る道路など『アンダーパス』と呼ばれる場所は冠水しやすく、車が立ち往生する恐れがある。避難ルートに含まれているのであれば、迂回(うかい)路を選んだほうが安全だろう」

 ―避難所に到着後、健康を保つためにはどんなことを心掛ければよいか。

 「我慢をし過ぎないように意識してほしい。避難所では多くの人が共同生活を送ることになる。他者への遠慮などから、自分の意見や状況を周囲に伝えにくいと思う。食料や寝具などの支援物資は均等に配られるものだが、体調の悪さを運営者に申し出れば、配慮してもらえる場合もある。特別扱いされることに抵抗があるならば、毛布など自分で用意できる物はあらかじめ車に積んでおくといい」

 ―避難までに防災バッグにそろえておくべき物を教えてほしい。

 「現金やキャッシュカードなどの貴重品と普段から服用している医薬品やお薬手帳、3日分の非常食と着替え、懐中電灯、電池は最低限備えてほしい。避難生活に『あると助かる物』を全てそろえてしまうと、リュックサックの重さは女性なら10キロ、男性では15キロにもなると言われる。子どもやお年寄りがそれだけの重さを背負って逃げるのは現実的ではない。自分にとっては何がより必要なのかを吟味し、『運べる分だけを詰める』という意識でいてほしい」

 ―場所を取らないけれども便利という小物があれば教えてほしい。

 「ビニール袋、ラップ、新聞紙が三種の神器と言われている。45リットルのビニール袋は水を運んだり、ポンチョ代わりにかぶったり、簡易トイレにしたりと幅広い用途に使える。ラップはけがをした部分にガーゼを当て、上から巻けば包帯代わりになる。細くねじればひもとしても使える」

 ―避難所での新型コロナウイルス感染対策は。

 「マスクや消毒用アルコールは持参したほうがいい。ただ、荷物になるので大量に用意する必要はない」

 ―夏の避難所で役立つ持ち物は。

 「冷感タオルや冷却シートなど暑さをしのげる小物は役に立つ。速乾性に優れたTシャツも数枚あると体調を管理しやすい。熱中症対策としては塩分を補給できるあめもお勧めだ」

 ―食中毒の心配もある。

 「封を開けてしまった食べ物は長く放置しない。一度に食べ切れる個包装の食品を防災バッグに入れておいてほしい」

 ―藁谷さん自身が災害に備える上で特に工夫していることは。

 「防災バッグに関して言えば、季節によって必要になる物は変わるので夏と冬で中身を入れ替える。小物類は透明な袋にまとめて収納し、必要な時にはすぐに取り出しやすくしている」

 ―防災バッグをこれから準備する人は、どんなことから始めれば良いか。

 「バッグを作る前に防災ポーチから始めれば、それほど負担には感じないと思う。薬や軽食などをポーチに収め、普段使うバッグに忍ばせておく。非常時に必要になると思った物を少しずつ増やしていけば、自分に合った防災バッグができるのではないか」


 わらがい・としふみ いわき市在住。2007年に防災士の資格を取得。2012年に日本防災士会福島県支部、2017年に福島県防災士会を設立し理事を務める。いわき短期大学幼児教育科の非常勤講師。