論説

【原爆の日】廃絶の願い無にするな(8月6日)

2022/08/06 09:05

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 広島はきょう六日、長崎は九日に戦後七十七回目の原爆の日を迎える。比類のない戦争被爆地として「核兵器のない世界」を求め続けているが、今の国際社会は遠のく方向に動いている。廃絶への願いを無にしてはならない。揺れる国際情勢に一段と目を向け、日本や世界の動向を注視していく必要がある。

 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所によると、今年一月時点の世界の核弾頭数は推計一万二千七百五発に上る。ロシア五千九百七十七発、米国五千四百二十八発で、二国が全体の九割を占める。中国は三百五十発で三番目に多く、英仏などでも開発、配備が進む。

 ロシアによる核の威嚇を踏まえ、研究所は「核兵器が使用されるリスクは冷戦時代以降、最も高まったとみられる」と警告する。核保有国が軍縮に向けて行動しなければ、世界の在庫は冷戦後初めて増加に転じる可能性も指摘した。核軍備の増強にこぞって動き、けん制し合う構図には慄然[りつぜん]とする。被爆地の辛苦や教訓が無視されていると思えてならない。

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の初日、岸田文雄首相は核兵器不使用の継続とともに、削減に向けた米ロ、米中対話を支持し、後押しする考えを表明した。一方で、核保有国、非保有国間の立場の隔たりは大きく、核軍縮を巡る最終合意の着地点は見通せない。

 不拡散の目的とは裏腹に、世界に亀裂が広がり、条約が有名無実化する事態も懸念されている。来年五月に広島で先進七カ国首脳会議(G7サミット)が開催される。ロシアのウクライナ侵攻が長期化し、かじ取りが困難な局面にあっても、唯一の被爆国としての発言力、説得力をもって核軍縮を主導すべきだ。

 核を取り巻く世界秩序は安定に向かうのか、混迷を深めるのか、かつてない岐路に立たされている。外交の力や技が問われるとはいえ、民意も非力ではないはずだ。国民、県民も重大な関心を寄せ、核の問題とも真剣に向き合わなければならないだろう。

 広島、長崎の原爆死没者は昨夏時点で五十一万八千九十二人に上る。被爆者の平均年齢は八十歳を超え、実体験を語り継ぐ人々は年々減っていく。とめどない核の拡大は被爆地を置き去りにし、風化を助長しかねない。東京電力福島第一原発事故が発生して以来、本県は医療や復興などで多くの支援を受けてきた。原爆の日に発せられる言葉に、核なき平和への積年の思いを重ねたい。(五十嵐稔)