ブルドーザーの代わり(9月2日)

2022/09/02 09:05

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 鎌倉市の鶴岡八幡宮の裏山に一九六四(昭和三十九)年ごろ、市民や学者、僧侶らが集まった。持ち上がっていた宅地開発計画をブルドーザーの前に立ちはだかって食い止め、観光名所の美しい景色と地域の誇りを今に残した▼この運動などをきっかけにして古都保存法ができた。歴史上重要な地域を無節操な開発から守る。建造物だけでなく、周囲の自然環境も対象とされる。鎌倉市とともに、京都市、奈良市、奈良県斑鳩町など全国十市町村が古都に指定されている▼当時の鎌倉市と似たような動きが全国に広がっている。的とされているのは、大きな風車だ。関西電力は宮城県や北海道で検討してきた風力発電事業を断念した。県内でも大阪市の企業が会津地方で計画したが、撤回した。地元の首長や住民は山里の環境や防災面への影響を危惧し、異を唱えていた▼クリーンな再生可能エネルギーとして風力発電の役割は大きい。ただ、自然や景観を損なう場合も確かにある。どの程度なら自然の力を借りられるかは、その地の事情による。開発の可否は別にして、住民と事業者の間にあるべきはやはり、ブルドーザーではなく、向かい合う丸いテーブルだろう。