二〇一五年六月、夫が脳悪性リンパ腫で緊急入院し、奇跡的に緩解して、今年で在宅介護七年目。私たち夫婦にも老老介護が始まる。
老老介護とは六十五歳以上の高齢者同士の介護で、夫婦はもちろん、親子など家族間でも起こる。日本では四人に一人が高齢者(六十五歳以上)であり、少子高齢化と核家族化により老老介護の人口は増え続けている。二〇〇一年のデータを見ると、老老介護は40・6%、二〇一五年では54・7%と増加している。長期的に見ても老老介護の人口は増加する傾向にある。七十五歳以上同士が介護を行う超老老介護も30%超えで、健康寿命よりも平均寿命が長いため、介護期間も長期化している。
老老介護は介護者の負担が大きく介護疲れを起こし、夫婦や親子で共倒れになってしまうこともある。排せつや着替え、入浴などの介護で体力の問題が起きやすい。
介護者と社会との接点が減ることで、介護者自身のストレスも増える。脳の機能が低下し認知症につながることもあるそうだ。社会的な孤立がストレスになり、認知症の進行を進めてしまうことで、老老介護から認知症高齢者の認認介護に移行する可能性も高い。
老老介護で共倒れにならないためには、次のような公的介護保険制度を利用することだ。
(1)地域包括ケアシステム
(2)デイケア・デイサービス
(3)ショートステイ
(4)訪問介護・看護
(5)老人ホームなどの介護施設
私たち夫婦は(1)から(4)までの制度を利用し、さらに、夫は訪問歯科の診療と在宅整体も受けている。(5)については、常に検討中だ。
日本において老老介護が増加し、共倒れまで起きている要因の一つに、「他人に介護される抵抗感」がある。確かに、最初はケアワーカーやヘルパーが自宅に来て介護サービスを提供してくれることに不安と戸惑いがあった。しかし、この七年間、在宅介護と仕事を両立し続けられ、共倒れしなかったのは、間違いなくケアワーカーやヘルパーさんたちのおかげだ。訪問介護や看護で私の介護の負担が軽減するだけでなく、夫も外から人が来てくれることで、社会との接点ができ、孤立が防げている。介護の方法などのアドバイスを受けられる点も助けられている。
同じ感覚を人生で再度、味わっている。子どもが幼かった頃、保育所に子どもを託して仕事を続けることに確かに抵抗感があった。ところが子どもは、忙しい親よりも豊かなかかわりや出会いを創ってくれる保育所が大好きになり、のびのびとたくましく成長した。
夫婦や子どもたち等、人生で授かった命は、私だけのものではない。まさに天からの授かりものだ。多くの人の手を借りて、共に子育てし、介護していくことが、必要だと身に沁みて実感している。「大丈夫」と「ありがとう」が口癖の忍耐強く闘病する夫からは、家族の存在によって、ヴィクトール・E・フランクルの言う「生きることから降りない」姿勢を日々、学んでいる。(西内みなみ 桜の聖母短期大学学長)