東日本大震災・原発事故

<産業>イノベ構想 浜通りを産業都市に「福島国際研究教育機構」浪江に設置【震災・原発事故11年6カ月 福島県】

2022/09/11 17:42

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 福島県浜通りに新たな産業基盤を構築する国家プロジェクト「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想」の実現に向けた取り組みが本格化している。県は構想の司令塔機能を担う福島国際研究教育機構を浪江町に置くことを政府に提案しており、機構を拠点として浜通り地域全体で産業都市の形成を目指し、世界レベルの研究開発や社会実装、産業化、人材育成が進められる。


 構想の概要は【図】の通り。構想を推進する重点として廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙の6分野が位置付けられている。

 国や県は構想の中核として機構が立地することで、浜通りをはじめ福島県内全域に効果を波及させたい考えだ。機構が掲げる「創造的復興」の実現には機構のみならず、県内各地にあるさまざまな分野の研究開発・教育機関との連携が欠かせない。福島ロボットテストフィールド(南相馬、浪江)などの最先端の研究施設をはじめ、福島医大や会津大などの教育機関、産業界を含め幅広く広域的な連携による最大の相乗効果を目指している。

 機構の主な研究分野は(1)ロボット(2)農林水産業(3)エネルギー(カーボンニュートラル)(4)放射線科学・創薬医療(5)原子力災害に関するデータや知見の集積・発信で、約50の研究グループに国内外から数百人の研究者が参加する。研究者らの県内への移住などで地域活性化も期待される。


■福島ロボテス 新産業が集積

 南相馬市と浪江町の福島ロボットテストフィールド(ロボテス)で、ロボットや小型無人機(ドローン)、空飛ぶ車などの研究開発が進んでいる。

 福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想の中核施設として2020(令和2)年春に全面開所した。2018(平成30)年7月の一部開所から今年8月末までに約7万1千人が施設見学や試験、訓練などに訪れた。9月1日現在で17団体が研究室に入居している。

 入居していた企業が隣接する南相馬市復興工業団地に工場や研究拠点を構えるなど新産業の集積が進む。ドローン・ロボットを実演・展示する「ロボテスEXPO」や見学会を開催し、認知度向上を目指している。


■農業 産出額、震災前の90.8% ブランド振興 国内販路拡大

 本県の2020(令和2)年の農業産出額は2116億円となり、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後、最多だった。震災と原発事故発生前の2010(平成22)年の2330億円の90・8%まで回復したが、さらなる増加に向けてブランド力強化や販路拡大に向けた農業振興が求められている。

 農業産出額の推移は【グラフ】の通り。県やJAグループ福島などは県産品の風評払拭に向け、県外でトップセールスやフェアを開催し、安全性を地道に発信している。新型コロナウイルス感染拡大以降、トップセールスはオンラインで実施してきたが、7月には内堀雅雄知事らが3年ぶりに首都圏や関西圏を訪れ、県産農産物の魅力を直接、市場関係者や消費者にアピールした。

 県はブランド振興にも力を注いでいる。オリジナル高級米「福、笑い」は2021年秋から本格販売が始まった。イチゴのオリジナル品種「福島ST14号」も開発した。県は一般から募った名前から最も優れた一点を商標登録する計画で、秋ごろに発表する予定。

 国内では、人口減少や高齢化などの影響でコメの供給過多の状況が続いている。JAグループ福島は「ふくしま園芸ギガ団地」構想を打ち出し、園芸作物の農地集約を目指している。


■漁業 事故後最多4976トン 相馬双葉漁協 来年1月、小型船漁開始 県内漁獲量

 福島県沿岸漁業は昨年3月末で試験操業を終え、本格操業に向けた移行期間に入っている。現在、いわき地区では通常操業、相双地区では拡大操業の名称で各漁協が漁を実施している。

 原発事故発生後の本県沿岸漁業の漁獲量推移は【表】の通り。年間水揚げ量は増加傾向で、2021(令和3)年度は原発事故発生後最多の4976トンを記録した。移行期間の漁では、自主的な制限を段階的に緩和し、数年かけて原発事故発生前の操業体制や漁獲量増大を目指す。

 いわき市漁協では、昨年9月から市内の勿来魚市場の本格的な鮮魚の卸業務が再開した。相馬双葉漁協は国の「がんばる漁業復興支援事業」に認定された県漁連の復興計画に基づき、沖合底曳き網漁に加え、漁獲能力の底上げのために来年1月から小型船漁を始める予定だ。

 県漁連は首都圏での「常磐もの」魚食普及イベントなどを通して本県海産物のPRを継続している。


■林業 県内生産量89万立方メートル 震災発生年の1.4倍

 農林水産省の木材統計によると、2021(令和3)年の県内の素材生産量(製材用・チップ用・合板用)は89万立方メートルで、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生した2011(平成23)年の63万3千立方メートルの1・4倍に上っている。

 2021年の素材生産量を用途別に見ると、製材向けが44万4千立方メートル、チップ向けが38万2千立方メートル、合板向けが6万4千立方メートルだった。

 県内では林業の活性化に向けて県が整備した人材育成拠点「林業アカデミーふくしま」が4月に本格開講した。長期研修の一期生14人が学んでいる。新たな研修施設が郡山市の県林業研究センター内に完成し、記念式典が行われた。

 原発事故や人口減少などの影響で荒廃した県内のシイタケ原木林のうち、林野庁と県は4月、当面の間に再生すべき面積を5千ヘクタールと公表した。原発事故発生前の県全体の原木林面積(推計)の半分に相当し、整備には約20年を要すると見込んでいる。一連の事業は国の東日本大震災復興特別会計で予算措置されている。第二期復興・創生期間の2025年度までは同様の仕組みが維持されるとみられるが、期間終了後も必要な財源が確実に確保できるかが課題となる。


■福島県食品輸入規制緩和進む 英政府 一部水産物など撤廃

 東京電力福島第一原発事故発生後、一部の国・地域で継続されてきた福島県食品の輸入規制措置の撤廃や緩和が進む。6月に英国政府が輸入規制を撤廃した。欧州連合(EU)など残る12の国・地域が輸入規制を解除する機運が高まると期待されている。

 英国政府が規制を撤廃したのは県産のキノコ類、カツオやサンマなどの一部水産物。これまで輸出する際に必要だった放射性物質検査証明書、県外で生産・加工したことを示す産地証明書の添付が不要になった。

 県によると、原発事故発生前、英国への県産食品の輸出実績はなかった。近年はコメや日本酒を輸出しているという。

 原発事故発生後に県産食品の輸入規制をしていた国・地域は55あったが、現在は12まで減少した。


■FH2R拠点に実証事業 なみえ水素タウン構想 製造、貯蔵、配送、使用

 浪江町は「なみえ水素タウン構想」を掲げ、町内の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)を拠点に国内の企業・団体とさまざまな分野で実証事業を展開している。水素の製造、貯蔵、配送、公共施設や地域での使用を促進し、次世代エネルギーの社会実装を目指している。

 町と連携協定を結んでいる住友商事は、町内のJR常磐線浪江駅の駅周辺再開発事業に、水素や再生可能エネルギーに関する知見やネットワークを提供し、水素を使ったモデル地区の計画策定に携わっている。建設業の大林組はFH2Rで製造された水素を町内に効率よく運ぶシステムの実証実験を進めている。


■モデル地区計画 水素ステーション整備

 水素ステーション設置の動きも進む。アポログループ(本社・福島市)のふくしまハイドロサプライは5月、棚塩産業団地に移動式を開所した。伊達重機(本社・浪江町)は、日本水素ステーションネットワーク合同会社(本社・東京都)と共同で川添地区に定置式を整備しており、12月の完成、開所を予定している。