論説

【県職員定年延長】人材生かす工夫を(11月28日)

2022/11/28 09:05

  • Facebookで共有
  • Twitterで共有

 県は県職員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる方針を固めた。関係する条例の改正案を12月定例県議会に提出する。少子高齢化が進み、健康寿命が延びる中、定年延長は社会の流れと言える。自治体の人事制度や給与の動きは民間に大きな影響を及ぼす。県全体を見回した制度の構築が必要ではないか。

 2023(令和5)年度から2年ごとに定年を1歳ずつ引き上げ、2031年度から65歳定年となる。定年延長は国家公務員の65歳定年に準じた措置で、改正地方公務員法が来年4月に施行されるため、全国で延長の準備が進められている。県の動きで県内市町村の対応も加速する。

 職場にとってのメリットは数多い。経験豊富で知識、技術を持ち合わせたベテラン職員の雇用継続で、行政サービスの維持につながる。若手職員に対する指導、助言も手厚くなるだろう。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生当時を経験した人材が残ることで、道半ばの復興に挑む被災地の住民、行政にとって心強いのではないか。

 一方で、若い世代の管理職への昇進が滞らないよう、「役職定年制」が導入される。管理監督職は、60歳を過ぎれば非管理職の課長補佐級の主任主査への降任が想定されている。仕事に対しての立場や業務内容は大きく変わり、新たな意識付けを持って職務に当たらなければならない。意欲や士気を高めるための研修などは工夫を凝らして、しっかりとプログラム化して取り組んでもらいたい。

 長期的にみれば、今後10年ほどは退職者数がいびつになるため、新採用者数の計画的な調整が必要となろう。職員定数や人件費についても将来を的確に見極めなければならない。よりよい制度を作り上げるためには、行財政改革の視点も忘れてはならない。

 年金の支給が原則として65歳からとなっている現状からすると、公務員に限らず働く人の定年延長は全ての職場の課題と言える。民間企業でも定年延長の検討が進んでいると聞く。その中で、一つ気になるのは60歳を超えた職員の給与水準をそれまでの7割に設定している点だ。県の給与を参考にしている企業にとっては「高いハードル」と感じるのではないか。

 この割合は人事院が2018(平成30)年に全国の民間企業の調査などを踏まえて出している。社会情勢は大きく変化し、地域によって給与水準は異なる。県民の感覚と解離が少ない新たな制度となるよう、臨機応変な対応も求められる。(安斎康史)