

福島民報社は福島テレビと共同で県民世論調査(第39回)を実施した。東日本大震災の復興特別所得税の徴収期限を延長し、一部を防衛費増額の財源に充てる政府方針の受け止めを尋ねたところ、「全く納得できない」と「あまり納得できない」が合わせて61・5%に上った。被災者をはじめ国民不在と指摘される中で進んだ議論の在り方などに、多くの県民がふに落ちていない実態が浮き彫りとなった。
防衛費増額の受け止めに関する回答結果は【グラフ】の通り。「全く納得できない」が32・5%で最も多く、「あまり納得できない」が29・0%で続き、合わせて約6割を占めた。「ある程度納得できる」は26・1%、「納得できる」は8・8%で計34・9%にとどまった。「わからない」は3・5%だった。
岸田内閣を「支持する」とした回答者のうち、防衛費増額に「納得できる」のは20・6%、「ある程度納得できる」は44・4%だった。一方、内閣を支持する層でも24・2%は「あまり納得できない」、8・9%は「全く納得できない」とした。内閣不支持層のうち「全く納得できない」は54・7%に上り、「あまり納得できない」は27・9%だった。「ある程度納得できる」は13・4%、「納得できる」は3・5%だった。
年代別で最も多い回答は、20代と30代、50代、60代が「全く納得できない」、18~19歳と70代は「あまり納得できない」だった。一方、40代と80歳以上は「ある程度納得できる」となった。18~19歳、20代、30代で「納得できる」との回答は無かった。
政府は2023(令和5)年度から5年間の防衛費を現在の1・5倍の約43兆円に増額する方針だ。防衛費増額の財源確保策として、東日本大震災の復興特別所得税の税率を現在の2・1%から1%分引き下げ、防衛向けの財源に充てる。復興特別所得税は2037年までの課税期間を最長で13年間延長し、復興財源の総額を維持するとしている。
■県民世論調査 衆院選挙区定数減 県内影響「懸念」70.5%
福島民報社が福島テレビと共同で実施した県民世論調査(第39回)で、衆院小選挙区定数を10増10減する改正公選法に伴い県内小選挙区の定数が1減の4となったことについて、福島県を含め地方の声が届きにくくなるかどうかを尋ねたところ、「非常に懸念している」「ある程度懸念している」との回答が合わせて70・5%に上った。地域の実情が国政に反映されるか懐疑的な県民が多い状況が鮮明となった。
衆院小選挙区定数の見直しに関する回答は【グラフ①】の通り。「非常に懸念している」が44・5%で最も多く、「ある程度懸念している」が26・0%で続いた。「あまり懸念していない」が18・1%、「全く懸念していない」が6・4%で計24・5%と4分の1以下だった。「わからない」は4・9%だった。
「非常に懸念している」とした回答者の割合を年代別にみると、30代の66・7%が最も高く、40代が63・2%、70代が45・1%だった。男女別では「非常に懸念している」と答えた割合が男性は45・1%、女性は44・0%だった。幅広い年代や性別が不安を抱いている実態が明らかになった。
■原発の運転延長、次世代型開発 「評価しない」半数超
政府が既存原発の運転期間を延長し、次世代型原発の開発と建設を進める方針についての回答結果は【グラフ②】の通り。「評価しない」と「どちかといえば評価しない」との回答が合わせて52・7%と過半数を占め、「評価する」「どちらかといえば評価する」は計38・8%にとどまった。「わからない」は8・5%だった。
最も多かった回答は「評価しない」で42・2%だった。全回答について岸田政権の支持動向で分析すると、岸田政権を「支持する」とした回答者は「評価する」が25・0%、「どちらかといえば評価する」が36・7%で計61・7%だったのに対し、岸田政権を「支持しない」とした回答者は「評価しない」が58・1%、「どちらかといえば評価しない」が12・2%で計70・3%だった。
経済産業省の有識者会議では、次世代型への建て替えは廃炉が決まった原発を対象とし、開発や建設で国の支援を検討することを了承。既存原発の運転期間は、再稼働のための審査の対応で停止した期間を計算から除外し、60年を超える運転を可能にした。
■処理水「理解広がらず」49.3%
東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋放出する政府方針について、国内外での理解が広がっているか尋ねたところ、「全く広がっていない」「あまり広がっていない」との回答が合わせて49・3%とほぼ半数を占めた。東電の放出に向けた作業が進む中、政府や東電の説明を不十分と感じる県民が依然として多い状況が示された。
処理水に関する回答結果は【グラフ③】の通り。9月の前回調査と比べ、「全く広がっていない」は9・5%で1・2ポイント減、「あまり広がっていない」は39・8%で1・6ポイント減となった。
「かなり理解が広がっている」は9・7%で0・6ポイント減、「少しは理解が広がっている」は32・1%で4・4ポイント増えた。「わからない」は8・9%で1・0ポイント減った。
政府方針を巡っては、処理水への正しい理解が広がっていないとして県内のあらゆる産業、市町村議会などから新たな風評発生への懸念や慎重な対応を求める声が根強い。
■内堀知事「支持」7割回復
内堀雅雄知事に対する県民の支持動向も調べた。「支持する」と回答した割合は76・0%で、9月の前回調査より6・1ポイント上昇し、再び7割台に回復した。結果は【グラフ④】の通り。「支持しない」は14・6%で、前回から0・7ポイント微増した。「わからない」は9・5%で、前回から6・7ポイント減となった。
内堀知事を「支持する」とした回答者に理由や政策を尋ねたところ、「復興・地方創生」が21・3%で最も割合が高かった。次いで「福島第1原発の廃炉・処理水対策」15・4%、「国内外への情報発信」12・6%、「風評・風化対策」11・8%などだった。
一方で、「支持しない」とした回答者の理由で最も割合が高かったのは「福島第1原発の廃炉・処理水対策」の34・2%で、前回より6・8ポイント減少したものの高い傾向が続いている。不支持の理由に「リーダーシップ」を挙げた割合は18・9%で、前回より7・9ポイント悪化した。
男女別にみると、男性は「支持する」72・7%、「支持しない」17・3%、「わからない」10・1%となった。女性は「支持する」79・4%、「支持しない」11・8%、「わからない」8・8だった。
■内閣「支持」32.6% 前回比1.5ポイント下落
岸田文雄首相の岸田内閣に対する県民の支持動向も調査した。結果は【グラフ⑤】の通り。「支持する」が32・6%で9月の前回調査から1・5ポイント下落した。「支持しない」は45・2%で前回より0・5ポイント減少したものの、前回調査に引き続き「支持しない」が「支持する」を上回った。「わからない」は22・2%で前回比2・0ポイント増となった。
岸田政権に望む復興政策については「福島第1原発の廃炉・処理水対策」が36・7%で最も割合が高く、「景気経済対策」12・1%、「帰還困難区域全域の除染と避難指示解除」11・0%、「風評・風化対策」9・2%などが続いた。
【調査結果(かっこ内は9月の前回調査)】
問1 岸田内閣を支持しますか。
支持する32・6%(34・1%)
支持しない45・2%(45・7%)
わからない22・2%(20・2%)
問2 岸田政権に望む東日本大震災からの復興に向けた政策は何ですか。
帰還困難区域全域の除染と避難指示解除11・0%(11・3%)
福島第1原発の廃炉・処理水対策36・7%(36・1%)
風評・風化対策9・2%(11・6%)
原子力損害の確実な賠償
7・4%(5・4%)
農林水産業の振興5・9%(4・5%)
景気経済対策
12・1%(12・1%)
人口減少対策7・4%(6・3%)
公共事業2・2%(1・7%)
その他・わからない8・1%(11・1%)
問3 内堀雅雄知事を支持しますか。
支持する76・0%(69・9%)
支持しない14・6%(13・9%)
わからない9・5%(16・2%)
問4 前の質問で内堀知事を「支持する」を選んだ理由や政策は何ですか。一つ選んでください。
復興・地方創生21・3%(21・1%)
福島第1原発の廃炉・処理水対策15・4%(16・1%)
風評・風化対策11・8%(12・9%)
国内外への情報発信12・6%(11・2%)
農林水産業の振興8・1%(5・6%)
景気経済対策8・7%(7・8%)
県民の健康増進6・7%(7・0%)
リーダーシップ9・9%(10・6%)
その他5・5%(7・8%)
問5 前の質問で内堀知事を「支持しない」を選んだ理由や政策は何ですか。一つ選んでください。
復興・地方創生
6・3%(5・0%)
福島第1原発の廃炉・処理水対策34・2%(41・0%)
風評・風化対策5・4%(6・0%)
国内外への情報発信6・3%(9・0%)
農林水産業の振興9・0%(2・0%)
景気経済対策9・9%(6・0%)
県民の健康増進3・6%(7・0%)
リーダーシップ18・9%(11・0%)
その他6・3%(13・0%)
問6 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含んだ処理水を海洋に放出する政府の方針について、国内外での理解は広がっていると思いますか。
かなり理解が広がっている9・7%(10・3%)
少しは理解が広がっている32・1%(27・7%)
あまり広がっていない39・8%(41・4%)
全く広がっていない9・5%(10・7%)
わからない8・9%(9・9%)
問7 岸田文雄首相は、最長60年としてきた既存原発の運転期間を延長し、次世代型原発の開発・建設も進める方針です。東京電力福島第1原発事故を受け、原発の新増設や建て替えは想定しないとしてきたエネルギー政策の転換を意味します。こうした政府方針を評価しますか。
評価する11・7%
どちらかといえば評価する27・1%
評価しない42・2%
どちらかといえば評価しない10・5%
わからない8・5%
問8 衆院小選挙区定数を10増10減する改正公職選挙法が公布され、県内小選挙区は定数が5から4に一つ減らされました。福島県を含め地方の声が国に届きにくくなると懸念していますか。
非常に懸念している44・5%
ある程度懸念している26・0%
あまり懸念していない18・1%
全く懸念していない6・4%
わからない4・9%
問9 政府は、東日本大震災の復興に使われている特別所得税の徴収期限を延長し、その一部を防衛費増額の財源に充てる方針を決定しましたが、どう受け止めますか。
納得できる8・8%
ある程度納得できる26・1%
あまり納得できない29・0%
全く納得できない32・5%
わからない3・5%
【調査の方法】17日、県内市町村の有権者数の割合に応じ、電話帳から抽出した家庭用電話にダイヤルするRTD(ランダム・テレフォンナンバー・ダイヤリング)方式で実施した。761人から完全回答を得た。男女比は男性51・0%、女性49・0%。各設問での回答の割合は、小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合がある。