岸田文雄首相は新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けを今春、季節性インフルエンザと同等の「5類」に引き下げると表明した。ウイルスの変異が繰り返され、収束の見通しが立たない中で、専門家の評価は分かれている。拙速な見直しは不安や混乱を招きかねない。感染状況をしっかりと見極め、不安なく移行できる環境づくりが不可欠と言える。
5類になれば、感染者7日間、濃厚接触者5日間の待機期間はなくなる見通しだ。オミクロン株は、感染力自体は強いとされる。待機期間の撤廃に伴い、感染者が増える事態は容易に想像できる。
診察は現在、都道府県が発熱外来に指定した医療機関に限られている。季節性インフルエンザと同じ扱いになれば幅広く受け入れられ、現在の医療のひっ迫が緩和されるとの期待もある。一方で、院内での集団感染を危惧する声も根強い。医療の現況を見定め、受け入れ体制整備への支援も含めて丁寧に検討を進めるべきだろう。
今回の判断は、ワクチン接種が進んだことが要因の一つにあるという。しかし、身体的理由などによる未接種者は少なくない。感染への不安から外出を控えるといった意識も働きかねない。
マスクは現在、屋外は会話をしなければ原則不要とする一方、屋内は距離を確保できて会話をほとんどしない場合を除き、着用が奨励されている。移行後は、症状のある人などを除いて屋内も原則不要とする政府案は理解できる。ただ、医療機関を受診せずに症状の有無を自己診断し、マスクを着けるか否かも任意の判断になってしまう場合もあり得るだろう。
未接種者らの不安感を和らげるには、症状のある人が感染リスクを自覚し、着用を徹底するという自発的な意識の醸成が欠かせない。飲み薬の開発、普及も求められよう。
ワクチンは、全額公費負担とする経過措置が継続されるかどうかが焦点となっている。一律で自己負担になった場合、数度目と一度目の接種者の間に差が生じる。やはり一定期間は公費負担を続けるべきではないか。
感染力の強い新たな変異株の出現によって感染が急拡大しても、入院勧告、不要不急の外食自粛、飲食店への休業要請といった強力な対策は取れなくなる。移行後の緊急事態を想定した万全の備えも重要だ。
制限が取り払われたとしても、手洗い、うがい、換気など感染予防の習慣は心がけていきたい。(五十嵐稔)