論説

【通常国会召集】首相の覚悟問われる(1月24日)

2023/01/24 09:28

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 岸田文雄首相は23日の施政方針演説で、防衛力増強など国策の大転換につながる政策実現への具体的な道筋は示さなかった。喫緊の新型コロナウイルス、経済対策に原発政策、少子化など長期的課題を含めた徹底した議論が求められる。岸田首相は覚悟を持って説明を尽くすべきだ。

 政府は、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を明記した安保関連3文書を先月、閣議決定した。長射程巡航ミサイルの配備も目指している。しかし、専守防衛の域を超えかねないとの懸念は根強い。

 防衛費は2023(令和5)年度から2027年度までの5年間で総額約43兆円を確保する。財源として法人、たばこ両税の増税に加え、所得税に1%の付加税を課す代わりに復興特別所得税を1%引き下げる税制改正方針も決定した。ただ、戦後日本の針路を歴史的に変える重要政策が国会と国民不在で打ち出されたとの批判は絶えない。

 防衛力の増強は他国からの攻撃に対する抑止力を強化する一方で、緊張関係も高める。一触即発の脅威にさらされるのは常に国民だ。十分な合意形成がないまま進めていい問題ではない。施政方針演説の中で正面から増税に言及すべきだったのではないか。

 反対論がくすぶる自民党内への配慮があったとすれば、国民に真摯[しんし]に向き合っているとは言えない。「国民の前で正々堂々議論をし、実行に移す」とした演説冒頭の発言は全ての審議に通じるはずだ。増税の妥当性と検証材料をきちんと明示し、国民を巻き込む議論に高めることを確約する意思表明として、しっかりと脳裏に刻んでおきたい。

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故を巡り、「福島の復興をさらに進める」と語った。復興特別所得税の防衛費への一部転用は被災地を置き去りにしたまま突然打ち出された経緯がある。支障なく事業を進めるための担保を首相は自ら示す責任がある。

 福島第1原発の廃炉作業が紆余[うよ]曲折を重ねる中、現政権は原発の新増設と運転期間の延長に踏み出した。しかし、高レベル放射性廃棄物の最終処分問題は難題として残ったままだ。原発依存を強める一方で、課題解決への実行力が伴わなければ、将来世代はさらに重い負担を強いられる。

 異次元の少子化対策は、言葉は躍るが財源には触れずじまいだった。今年は統一地方選がある。衆院解散・総選挙も取り沙汰される。信を問われる正念場と、岸田首相は肝に銘じて臨むべきだ。与野党の論議の行方も注視していかねばならない。(五十嵐稔)