総務省の2022(令和4)年家計調査で、福島市民1世帯当たりの桃の年間支出額が6年連続で日本一となった。生鮮果物の総額でも全国2位となり、「フルーツ王国」としての県民性を改めて示したと言える。果物を巡っては、新品種が相次いで開発されるなど産地間競争が激しくなっている。全国トップクラスの産地であり続けるにはブランド力や生産力を高めるとともに、地元消費のさらなる拡大が欠かせない。
県は桃、梨、ブドウを重点品目に掲げた園芸振興プロジェクトに基づき、産地づくりを推進している。生産力と競争力の強化を柱にした2021年度からの5年計画で、後継者の確保や産地規模の拡大、県が独自開発した品種の導入などに取り組んでいる。新年度に計画期間の折り返しを迎える中、各品目の課題が浮き彫りになっている。
県産桃の半数を占める品種「あかつき」の収穫期は7月下旬から8月上旬までと短い。「福島の桃」の出荷期間を長くしてほしいとの市場の声は根強い。県は7月上旬に収穫する早生種や8月中旬以降の晩生種を増やしたい考えで、特に県オリジナルの早生種「はつひめ」「ふくあかり」の普及に力を入れる。しかし、知名度は高いとは言えず、まずは身近な消費者である県民に味や肉質の特長を発信し続けるべきだろう。
ブドウは県内でもシャインマスカットを扱う農家が増えてきた。ただ、栽培が難しく、粒ぞろいなど品質を向上させる技術指導が急務という。県は収穫期が重ならない県オリジナルの黒系種「あづましずく」の生産も推奨している。近年の出荷量は横ばいだが、大粒でみずみずしいのが魅力で、贈答用などとして販路を広げられないか。
重点品目以外では、イチゴの県オリジナル品種「ゆうやけベリー」に注目が集まる。初年の今季は18トンを生産し、来季は100トンを目指すとしている。栃木県の「とちあいか」、宮城県の「にこにこベリー」など新品種の競合相手は手ごわい。需要拡大に向けては消費地の動向を見極めた戦略が必要になる。
生産量を増やす上では、どの品目も担い手と栽培地の確保が重要だ。県は廃業する農家の園地を新規就農者に継承する事業を始めた。候補地は一覧化し、一部は技術指導の場にする。生食、加工品と果物の用途は広く、農業振興の切り札になり得る。遊休農地の活用を含め、さまざまな糸口を見いだし、全国屈指の果樹ブランドを次世代につないでいきたい。(角田守良)