【福島国際研究教育機構 創生の道標 OISTの教訓】(上)「常識」打ち破れるか 安定的な資金不可欠

2023/02/24 09:10

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沖縄科学技術大学院大学の研究棟などの施設群。世界中から優秀な研究者が集まっている=14日、沖縄県恩納村
沖縄科学技術大学院大学の研究棟などの施設群。世界中から優秀な研究者が集まっている=14日、沖縄県恩納村

 政府が4月1日に設立する福島国際研究教育機構(F-REI、エフレイ)は世界最先端の研究開発と人材育成を担う。成果を新たな産業と雇用の創出につなげる構想だ。本県復興や日本の科学技術力の発展に貢献する使命がある。沖縄県にある沖縄科学技術大学院大学(OIST、オイスト)も沖縄振興への貢献を旨に政府主導で誕生した。OISTの成果と課題を教訓に、F-REIの進むべき道を展望する。


 コバルトブルーに輝く海と豊かな自然を象徴するサンゴ礁に代表されるリゾート地の沖縄県恩納村。沖縄本島西部を通る国道58号の東側の山林を切り開いた高台に沖縄科学技術大学院大学がある。2012(平成24)年9月に開学した。

 「ベスト・イン・ザ・ワールド」のかけ声の下、世界最高水準の教育研究に励む。その先に経済の自立的発展を遂げた沖縄という青写真を描く。沖縄県の県民1人当たりの所得は全国平均の4分の3程度と全国で最も低く、経済発展による他の都道府県との格差是正は大きな課題の一つだ。

 OISTとF-REIはともに地域振興と科学技術の発展という目標は同じだが、達成に向かう手法は異なる。私立の学校法人であるOISTは教育研究に主眼を置く一方、特殊法人のF-REIは産業化を見据えた研究開発を重視する。復興庁の寺崎秀俊審議官は「F-REIは新産業創出という実用性を追求する点に特徴がある」とOISTとの違いを力説する。


◆世界9位

 OISTは開学からわずか10年足らずで自然科学の研究分野で世界トップの水準まで駆け上がった。優れた論文数の割合で世界の研究機関を順位付けする「Nature Index2019」による研究機関の規模を考慮して補正したランキングで世界9位、国内1位との評価を得た。

 優れた研究をリードするのが世界中から公募したハイレベルの教員だ。その一人である客員教授のスバンテ・ペーボ氏(ドイツ・マックスプランク進化人類学研究所、スウェーデン出身)は2022(令和4)年にノーベル医学生理学賞を受けた。

 沖縄県で先行研究が始まったのは2004年。OISTの前身の法人・沖縄科学技術研究基盤整備機構が設立される前年に、うるま市の施設で四つのグループが研究を始めた。整備機構、OISTへと引き継がれ、現在の研究グループ数は88に上る。今後もさらなる拡充を計画している。F-REIは初年度となる2023年度に1~5グループの稼働を目指す。


◆信頼と制約

 OISTの最大の特徴は、研究グループリーダーとなる教員への絶対的な信頼だ。教員の力量を信じ、研究内容を問わず安定的に資金を託す。それぞれが希望する研究に専念できる環境が整っている。

 ただ、高い研究レベルを維持するために一定の制約はある。厳しい選考を経て採用された教員でも最初の5年間で研究成果を認められなければ、テニュア(終身在職権)を得られない。テニュア取得後も、各教員は5年に1度の研究内容の審査に通らなければ、その研究は打ち切られる。

 世界トップレベルに達した背景には、国内の研究機関の「常識」や「慣例」にとらわれない姿勢がある。後発となるF-REIが世界最高水準を目指すためには、国際的な視点からの新たな運営方針が求められそうだ。

 OISTの加藤重治事務局長・副理事長(65)はF-REIの始動に向け、「成果を上げるには、多様な発想で自由に研究に取り組める裁量と安定した資金を研究者に与えることが不可欠。優秀な研究者を確保するための活動は早期に国内外で積極的に進めるべきだ」と指摘する。


※沖縄科学技術大学院大学(OIST) 沖縄振興と世界の科学技術発展に貢献する目的で2011(平成23)年11月に設立、2012年9月に開学した。5年一貫制の博士課程教育で、学部・学科はなく、自然科学全般の研究に当たっている。現在の学生は50カ国・地域から集まった約250人。教員は88人、職員は約千人で出身地は59カ国・地域に上る。