【福島国際研究教育機構 創生の道標 OISTの教訓】(下)成果の地域還元課題 産業化推進へ連携鍵

2023/02/25 10:09

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沖縄科学技術大学院大学の研究棟の一室。世界トップレベルの研究が進められている=14日
沖縄科学技術大学院大学の研究棟の一室。世界トップレベルの研究が進められている=14日

 「素晴らしい研究をしているとの認識はあるが、ビジネスにどう生かせるのか分からない」。沖縄科学技術大学院大学(OIST、オイスト)の評議員を務める沖縄経済同友会の渕辺美紀代表幹事(69)=ジェイシーシー会長=は、OISTの研究が世界的評価を受ける一方で、産業化につながらない現状にもどかしさを募らせる。

 OISTでの研究はゲノム解析や量子技術、海洋科学、脳科学など多岐にわたるが、新たな理論や知識を追究する基礎研究が中心だ。産業化が前提ではないため、成果をビジネスに直結させるのが難しい側面がある。地元経済界からは「具体的な成果が見えない」との声が上がる。


◆起業支援

 OISTの運営や研究に要する費用は、政府の沖縄振興予算から年間約200億円が充てられている。OISTにとって、地域振興に向けた産業化の推進は「必須項目」の一つだ。2019(平成31)年4月に敷地内に「イノベーションスクエア・インキュベーター」を開設し、新分野の起業支援にも力を入れ始めた。入居者に実験設備を提供するなど後押しする。

 沖縄県も独自の補助制度を設け、OISTの研究成果を活用した起業を支援している。2018年度から年間2千万円を予算化し、1件当たり1千万円を補助する。県科学技術振興課の玉城純子班長は「OISTは最初の10年で土台となる研究に注力した。産業化に向けてはようやくスタートを切った段階だ」と話し、今後に期待する。

 沖縄県内の企業や団体などとの共同研究も始まった。恩納村漁業協同組合とは養殖モズクや海ぶどうの安定生産に向けたゲノム解析などに取り組んでいる。ただ、品種開発など実用化には至っていない。


◆不透明

 「産学連携の基盤となる技術や産業化に向けた今後の具体的な戦略が明らかでない」。OISTの今後の課題を検討する内閣府の有識者会議は2021(令和3)年8月にまとめた報告書で、OISTの設置目的の一つ「沖縄の振興」における産学連携の不十分さを突いた。

 OISTと沖縄県内の自治体・産業界との関係が密接ではない現状を踏まえ、日常的に対話できる場の設定や企業とのマッチングの強化などにより、研究成果が地域の産業振興につながる仕組みの必要性を指摘した。内閣府沖縄科学技術大学院大学企画推進室の田村響次長は「世界トップレベルの研究と、成果の地域還元は車の両輪」として沖縄振興にも注力していると強調する。だが、産業化の実現は大きな課題として横たわる。

 OISTの活動を巡り、産学官による連携組織は現時点で存在していない。経済界には地元の需要を吸い上げてビジネスにつなげる「マーケットイン」の発想が研究段階で不足しているとの見方もある。

 渕辺氏はOISTと地元企業を結ぶコーディネーターの必要性を説く。「福島国際研究教育機構(F-REI、エフレイ)が産業化を目指すなら、初期の段階から研究を地域振興に役立てるとの方向性を明確にすべきだ。受け身ではなく、新産業創出が期待できる成果を自ら発信する姿勢が欠かせない」と提言する。