論説

【いわきの中山間地】基金の力で振興を(3月29日)

2023/03/29 09:08

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 いわき市は新年度、中山間地の振興に向けた基金を創設する。市内外から寄付を募って財源を確保し、人口減少や少子高齢化などが進む地域に活力を呼び込む施策に投入する。多くの企業や個人の賛同を得るには、水源かんようや木材供給、農畜産物生産など中山間地の特性や役割を広く知ってもらい、機能を維持する機運を盛り上げていく必要がある。

 市内の中山間地は市全体の約65%に当たる10地区、計約800平方キロに及ぶ。遠野、三和、田人、川前の4地区は全域が該当する。いずれも人口減少、高齢化などを要因とした農地、森林の荒廃などが懸念され、活性化に結び付く支援が急務となっている。

 市によると、基金制度の創設は県内市町村で初めてで、中山間地に立地する風力発電事業者からの寄付を積み立てる構想を描く。市内では現在、13基が稼働し、2025(令和7)年度までに30基が増設される見通しだ。寄付を待つばかりではなく、積極的に支援を呼びかけ、安定的に財源を確保する取り組みが欠かせない。

 市の発展に思いを寄せる個人への働きかけも重要になる。市はふるさと納税の使い道として「中山間地域の再生」を選択した場合、基金に積み立てることも検討している。返礼品として、農林業やキャンプ体験、特産品など中山間地の魅力に触れる機会を用意できれば、継続的な支援にもつながる。

 中山間地に活力を生み出す施策は通学、通院、買い物などの交通手段の確保、保健・医療・福祉の充実、伝統文化の継承、農産物直売所の支援、交流人口の拡大など多岐にわたる。市は庁内各部の担当部署でつくる推進本部を設置し、優先順位を付けて事業を展開するとしている。

 まずは、地域ごとの課題を整理して住民、学識経験者らの意見や要望を聞き取り、できるところから対策を講じてほしい。市はこれまでも中山間地の振興に力を入れてきた。基金を活用した振興策は従来の取り組みを維持した上で、より効果的な施策を打ち出す必要があるだろう。

 国は、中山間地など人口減少地域で商業施設や交流の場、福祉機能を集約し、住民が主体となって生活環境を守る「小さな拠点」づくりを推奨している。市は新年度、川前地区で拠点整備を進めるNPO法人に対し、運営経費の一部を補助する。こうした制度を一段と充実させ、地域の核となる組織づくりも中山間地の全ての地区で推し進めるべきだ。(円谷真路)