しきたりも気候もまるで違う。遠方への嫁入りは、女性にとって一世一代の冒険だろう。本県最南端の矢祭町にある魚屋兼料理店の奥さんは、300キロ離れた岐阜県飛騨地方から縁付いた▼言葉に戸惑った。福島弁と茨城弁が絡み合う独特の会話は、外国語さながら。家業とともに子育てにも追われた。夫に不満をぶつける日も。ざわつく心をほぐしてくれたのは、商工会女性部の仲間だった。「仕事と家庭の両立は大変」と、悩みを聞かされた。苦労は自分の専売特許じゃなかった。無言の励ましに、その日は久慈川の清流が、普段よりまぶしく見えた▼チェーン店が県内に大波のように押し寄せてくる。商店街が元気をなくして久しい。新型コロナの流行も拍車をかけた。お隣の魚屋、八百屋、肉屋さん…。新鮮さと味へのこだわりが誇りだ。登下校の子どもを見守る安全の砦[とりで]でもあるのに。このまま放っておいたら、そう遠くない日にまちの灯が消えてしまう▼岐阜から嫁いで20年。商工会女性部の主張発表県大会で最優秀賞に輝き、東北・北海道大会に臨む。すっかりなじんだ「矢祭弁」で訴えかけるかもしれない。「地域を支えるのは、うじら女性部だっぱい」<2023・6・1>