「次元の異なる少子化対策」の素案で、政府は財源確保の具体策は示さなかった。岸田文雄首相は予算倍増に向けた大枠を明らかにするとしていたが、詳細は先送りされた。衆院解散・総選挙への布石があるとすれば、深刻な少子化に正面から向き合っているとは言えない。国民の実質的な追加負担は生じず、当面の不足財源は特例公債でつなぐとしているものの、持続可能なのか。中・長期的な視点で検討を深める必要がある。
児童手当の拡充、高等教育費の負担減、育休給付金の引き上げなど、素案に掲げた施策は育児支援につながると評価できる。ただ、広範な施策をいくら並べても、財政の永続的な裏付けが担保されなければ頓挫しかねない。
財源確保を巡り、政府は2024(令和6)年度からの3年間を集中対策期間に据え、当初は年3兆円程度を軸に検討してきた。「3兆円台半ば」という5千億円もの増額は、1日の「こども未来戦略会議」の前日、岸田首相の指示による。積み増しを目指す高等教育関連や貧困、虐待防止などの対策強化は重要だ。しかし、財源は無尽蔵ではない。年3兆円自体の捻出にも苦心する中、土壇場での上積みは、総額重視の印象を拭えない。
3兆円台半ばの予算規模は、高い出生率を誇るスウェーデンに達する水準で、子ども政策は画期的に前進すると、岸田首相は胸を張った。規模で成否を計れるはずはない。制度設計がこれからでは空疎に響く。出産、育児、教育と切れ目のない政策を今後、どう構築するかが問われる。
財源とする支援金に関して政府は、医療保険料への上乗せを検討している。歳出削減は社会保障費が想定されている。痛みを強いかねないのに素案で触れずじまいでは、本気度が伝わってこない。
素案は戦略方針として決定後、経済財政運営指針「骨太方針」に反映される。財源確保策を示さない姿勢に対し、野党から批判の声が上がる。政権、与党側にも増税を含めた国民の負担増は避けたい本音もあると聞く。選挙含みで事を構える次元では、もはやない。政策が変転するようでは、子育て世代の信頼や安心感は得られないと肝に銘じて、与野党は真[しん]摯[し]に議論を尽くすべきだ。(五十嵐稔)