水田が初夏の青空を映して輝く。会津盆地は青苗の生命力に満ちる。日本農学史上の名著「会津農書」を約350年前に著した佐瀬与次右衛門は、全国有数の米どころの礎を築いた先人の一人として知られる▼幕内村(現会津若松市神指町)の名主で、若いころから指導者として大川などの洪水対策と耕地の開拓に奔走した。会津の厳しい気候風土に適した作物づくりを追い求め、土をなめ、重さを量るなどの実験を繰り返す。土壌ごとに適した品種などを記した農書を55歳で完成させた。長年の経験と優れた技術は、近隣の村にも伝えられた▼農家を取り巻く環境は厳しさを増している。人口減少や食習慣の変化などで米の消費は減る一方だ。肥料や資材の価格高騰がやまない。担い手不足の荒波にもさらされている。それでも、品質をさらに高め、消費者に喜んでもらおうと日々奮闘する▼農書は自然への謙虚な心を持つ大切さを説き、SDGsの視点から再注目されている。7月には会津農書を題材にした市民舞台が上演される予定だ。会津の農を開いた先人の偉大な背中に触れてみたい。遺伝子を受け継ぎ、持続可能な農に挑む後継者たちの背中を重ねつつ。<2023・6・3>