論説

【スポーツ界】一丸で暴力暴言排除を(6月5日)

2023/06/05 09:10

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 スポーツ界の「暴力行為根絶宣言」が採択されて今年で丸10年を迎えた。宣言に合わせて日本スポーツ協会が設けた窓口への相談件数は2022(令和4)年度、過去最多の373件に上った。誰もがスポーツを楽しむ権利が奪われることがないよう、関係団体、指導者、選手、保護者が一丸となってハラスメントの根絶に取り組む必要がある。

 統計を始めた2014年度以降、相談件数は新型コロナウイルス禍で活動の自粛が続いた2020、2021両年度を除き、増加傾向にある。協会は、個人が特定される恐れがあるとして都道府県別は明らかにしていないが、昨年度の373件には県民の相談も含まれているという。相談の内訳は「おまえなんていらない」「頭が悪い」などの暴言が34%で最も多く、暴力は13%だった。被害の41%が小学生で、中高生を合わせると60%以上を占めた。立場の弱い子どもに対して勝利への過大な圧力をかけたり、乱暴な言葉を繰り返したりする不適切な指導は萎縮を生み、心に著しい傷を与えかねない。

 協会は全国高体連や日本中体連などと連携し、暴力、暴言などの撲滅を目的にした「NO!スポハラ(スポーツ・ハラスメント)」活動を4月に始めた。ハラスメント排除に向けた各団体の取り組みを動画を含めホームページで分かりやすく紹介している。県スポーツ協会や県内の各競技団体は弁護士らによる講習会を開催している。県内の指導者や部活動を担当する教職員は、子どもへの接し方を再点検する上で積極的に活用してほしい。

 子どもをハラスメントから守るには保護者の役割も重要だ。ただ、日本スポーツ協会によると、子どもが保護者に問題を打ち明けても「我慢しなさい」「あなたが悪い」と諭されたケースもあったという。ハラスメントに当たる事案を十分に理解し、子どもの訴えや変化を敏感に受け止め、問題が確認されたら、本人に代わって声を上げる意識も持ちたい。

 スポーツは体の鍛錬と同時に、チームメートとの協調性を育む。礼儀作法を身に付ける上でも大切な役割を果たしている。子どもたちがスポーツに親しめる環境を守り続けていくのは大人の重要な責務と言える。(神野誠)