【会津大学長 辞任の波紋】(上) 突然の退場学生困惑 「評判下がらないか…」

2023/07/28 09:42

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記者会見で謝罪する趙副理事長兼副学長(中央)ら
記者会見で謝罪する趙副理事長兼副学長(中央)ら

 会津大の宮崎敏明理事長兼学長の突然の辞任が明らかになった27日、学内や大学のある福島県会津若松市に衝撃が広がった。大学トップの論文に不正行為が認定されたことに「尊敬できる先生。なぜこんなことになったのか」と困惑する。今年は開学30周年の節目に当たる。大学を長年支援している団体関係者からは「新学長の下で安定した大学運営を行ってほしい」との声も上がった。


 大学関係者によると、宮崎学長は大学カリキュラムの改革などに力を入れていた。4月に市内で開かれた講演会では18歳未満の人口減少を念頭に、社会人が学び直すリカレント教育を強化する姿勢を強調。より優秀な学生が集うよう入試改革に着手する考えを示していた。ある教員は「リーダーシップがあり、まさに大学の顔。これからだったのに…」と落胆を隠さない。

福島民報社の取材で辞任を知った教員は「ショックだ。信じられない」と言葉を失った。

 学生にも困惑が広がる。コンピュータ理工学部4年の男子学生は宮崎学長にさまざまな事情で通学できない学生の支援や、大学発ベンチャーの育成に熱心な印象を抱いている。「宮崎学長に入学を許可された。一緒に学位記授与式を迎えられないのは惜しい」と残念がった。同学部3年の松島弘幸さんは「大学の知名度向上に熱心だった」とした上で、「研究者としては認識が不十分だったのだろうか」と推測した。同じ3年の斉藤真央さんは「大学の評判が下がらないか気がかりだ」と不安を口にした。

 会津地域教育・学術振興財団は会津地域への4年制大学の誘致を目指して設立され、開学以来、会津大を支援してきた。渋川恵男理事長(会津若松商工会議所会頭)は「宮崎学長は民間出身らしい、ユニークな発想の持ち主で頼もしく思っていた。今年は開学から30年の記念の年であり、なおさら残念だ」と語った。

 大学は市の主要政策、スマートシティ構想にも携わっている。構想の拠点となるオフィスビル「スマートシティアイクト」に入る企業の関係者は「大学と一緒に進めている事業の進捗(しんちょく)に影響しなければいいが…」と影響を懸念した。


■教員「釈然としない」 引用許容範囲、時代で変遷

 辞任理由で問題とされた二重投稿は、自身の過去の論文と著しく重なる内容を別論文に記載する行為。自己盗用は自身の過去の論文の文章やデータ、図を適切に引用を明記せずに使用する。大学によると、引用がどこまで許容されるか明確なルールはないという。教員の一人も「何を自己盗用とするかの基準は時代とともに変わる。10年前はより緩やかだった。過去の論文を今の基準で不正とされるのは正直、釈然としない」と語った。

 大学は昨年2月に宮崎学長の論文4本の自己盗用が判明したのを受け、同4月に全教員に論文の確認をするよう通達していた。今後、二重投稿や自己盗用に関する具体的な規定を設ける。出版社の投稿規定やトラブルの事例を把握し、最新の研究倫理に関する情報を教員・学生が共有できる仕組みを構築する。

 県庁で記者会見した趙強福副理事長兼副学長は「事態を重く受け止め、コンプライアンスを徹底する」と述べた。