東日本大震災・原発事故

心のレール 文化でつなぐ 常磐線舞台芸術祭13日まで 沿線イベント 多くの演目「鉄道」に光

2023/08/01 09:18

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キーノートスピーチの後、手をつなぎ記念撮影に応じる(左から)相馬さん、古川さん、柳さん、平田さん、和合さん、小松さん
キーノートスピーチの後、手をつなぎ記念撮影に応じる(左から)相馬さん、古川さん、柳さん、平田さん、和合さん、小松さん
「小良ケ浜はオラが浜」を朗読する富岡表現塾のメンバー
「小良ケ浜はオラが浜」を朗読する富岡表現塾のメンバー
南津島の田植踊を披露する東北学院大の学生
南津島の田植踊を披露する東北学院大の学生

 被災地のJR常磐線沿線が、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で引き裂かれた心をつなぐステージになった。福島県ゆかりの文化人らが企画した初の「常磐線舞台芸術祭」は31日、南相馬市小高区の小高生涯学習センター(浮舟文化会館)で幕を開けた。13日までの2週間、沿線各地で演劇や音楽、朗読などを届け、災厄の傷が癒えない人々の思いを紡ぐ。開幕イベントに臨んだ出演者は、文化の力で古里の新たな物語をつくり上げる誓いを新たにした。


 伝統の相馬野馬追がこの日幕を閉じた小高の地で、熱気を受け継ぐように芸術祭の開幕イベント「KEYNOTE SPEECH(キーノートスピーチ)」が始まった。実行委員を担う文化人のトークには相馬中村藩主家第33代当主・相馬和胤(かずたね)さんの長男行胤(みちたね)さんが加わり、「芸術祭を通し、この地域の良さを肌で感じてほしい」と呼びかけた。

 芸術祭は小高に住む劇作家・小説家の柳美里さんの着想を基に、ふたば未来学園高で指導する劇作家の平田オリザさん、郡山市出身の作家古川日出男さん、福島市の詩人和合亮一さん、いわき市の地域活動家小松理虔(りけん)さん、相馬さんらが実行委員として練り上げた。柳さんは「新しい文化をここから発信していく」、平田さんは「情報と人をつなぐ場にしたい」と思いを伝えた。

 常磐線は震災で県内全区間が不通となり、9年後に全線再開通した。被災地再生の歩みを象徴する存在の一つで、古川さんは「常磐線が再開通した価値を共有したい」と訴えた。いわき市で1、2の両日に上演される平田さん作の演劇「銀河鉄道の夜」など、多くの演目で鉄道に光を当てる。

 5日には双葉町で、小高中の教員と生徒が避難先で編んだ合唱曲「群青」を全国の有志が歌う。企画・構成の和合さんは「浜通りで歌ってみたいと願う多くの人々との約束がかなう」と感慨深い表情を見せた。


■伝統芸能や朗読劇披露 県内外有志ら

 芸術祭は地元住民を中心に県内外の多くの有志らが支えており、開幕イベントでは伝統芸能や朗読劇などを披露した。

 伝統芸能を研究する東北学院大の学生有志は、帰還困難区域となっている浪江町南津島地区の田植踊を演じた。南津島出身で3年の今野実永(みのぶ)さん(20)は踊りを裏方として支え、「古里からのバトンをつなぐことができた」と喜んだ。

 NPO法人富岡町3・11を語る会の富岡表現塾は、帰還困難区域の富岡町小良ケ浜地区への思いを朗読劇で表現した。語る会代表の青木淑子さん(75)は「町を愛する心が声に強く表れていた」と振り返った。いわき市の磐城じゃんがら遊劇隊は、江戸時代から地域に伝わる念仏踊りを発表した。

 実行委員の小松さんはトークで舞台の感想に触れ、「伝統芸能を継承していく熱い思いが感じられた」と感激していた。


■今後のイベント

 13日までの芸術祭期間中は連日、演劇や音楽をはじめ旧避難区域を巡るツアー、食を楽しむ企画など多彩なイベントが続く。

 このうち柳さんが手がける演劇「JR常磐線上り列車―マスク―」は4~6日、小高区の「Rain Theatre(レインシアター)」で演じられる。各イベントの詳細は芸術祭公式サイトで紹介している。