今を生きる 揺れる母親たち(26) この気持ち誰に...

県外への避難を伝える書き込みに富田さんの心は揺れる

 すやすやと眠る1歳6カ月の長女の傍らで、福島市の主婦富田祥子さん(31)=仮名=は携帯電話の画面に目を落とす。育児サイトにお母さんたちの書き込みが連なっている。
 「ここで暮らして大丈夫かな?」「家族に相談しても聞いてくれない」。同じ悩みを分かち合うサイトが心のよりどころだ。ただ、次第に開く回数が減り、思いをため込むようになった。
 県南地方から福島市に嫁ぎ、夫と長女、夫の両親と5人で暮らしている。「ママ友をつくりたい」と、長女が産まれたのを機に育児サイトに登録した。
 子どもの成長や育児の悩みを打ち明け合う中で親しい友達ができた。1人の家にみんなで集まり、いろんなことを相談した。
 震災直後はママ友とのつながりが何よりも頼りになった。大半の店が休業していた中、「あそこのスーパーは開いている」「ここのガソリンスタンドは明日、給油を始める」などと、今すぐに欲しい情報を共有し合った。おむつが足りないと誰かが書き込めば、母親仲間で融通し、苦しい生活を乗り切った。
 3月中旬、東京電力の福島第一原発事故で福島市内の放射線量が高い数値を示したのを境に、放射線に関する内容が多くなった。
 「雨に当たらない方がいいよ」「海藻を食べると放射性物質が体内から排出されるらしい」「うがい薬はあまり効果がないみたい」。難しい専門家の言葉よりも、不思議とママ友の話の方が信じられた。
 今はサイトを開くたびに心が沈む。1人は熊本、1人は神奈川などと県外に避難する書き込みが目に飛び込んでくる。夏休みを挟んで、もっと増えるかもしれない。そう思うと、1人だけ取り残されていくような気がして焦る。
 放射線の影響が分かるのは30年ほど先という話を聞き、長女の将来が心配になった。実家や県外に移り住みたいと家族に相談したが、まとまらなかった。ここで暮らしていくと決めても、心はいつも揺れている。
 「自分は避難したくても、かなわない。この気持ちを誰に打ち明ければいいのだろうか」。折れそうな心をいつも支えてくれたサイトに、今は書き込む場所を見つけられない。