今を生きる 揺れる母親たち(27) 自分に向ける矛先

カレンダーを見ながら夏休みを待ちわびる佐久間さん親子

 「子どものために避難しないのは親じゃない」。郡山市の公務員佐久間恵子さん(34)=仮名=は、避難をためらう母親が責められたといううわさを聞き、動揺を隠せなかった。
 一度は避難を考えたが、仕事や家族の事情であきらめた。自分も陰ではそんなふうに見られているのではないだろうか。そう考えると、周囲の視線を冷たく感じる。
 働きながら小学3年の長男と保育園に通う5歳の長女を育てている。仕事を終えると真っすぐに帰宅し、子どもの元へ駆け寄る。
 本当は一日中見守っていたい。できないつらさが胸を締め付け、マイホームを手放し仕事を辞めて夫の実家がある会津地方に移る決心をした。
 子どもが通う小学校と幼稚園を決め、転入手続きも済ませた。しかし、実家から良い返事をもらえなかった。
 子どもだけを避難させることも考えたが、「幼い子が母親と離れるのは良くない」と周囲に諭された。「友達と会えなくなるから」と長男も拒んだ。「体よりも、多感な子どもの心に寄り添うほうが大切」と自分を納得させた。
 子どもの将来を考え、4年前に家を新築した。この場所でずっと暮らしていけるのか、今は先が見えない。「選択を間違えたのではないだろうか」。気が付くと自分を責めている。
 「子どもにつらい思いをさせているのは、こんな時期に産んだ自分のせい」とさえ考える。原発事故が全てを狂わせたはずなのに、矛先をつい自分に向けてしまう。
 夫が友人から借りた放射線量計で室内や家の周囲を測ったところ、室内は2階の寝室が比較的高かった。一番低い1階にすぐに場所を変えた。食事の際は庭側に自分が座り、子どもを放射線から遠ざけている。
 子どもたちは最近、「この食べ物は大丈夫?」と必ず尋ねてくる。親以上に放射線に敏感になっている。ささいなことにも、いら立つようになった。
 夏休みは、仕事に融通の利く夫が子ども2人を連れて会津の実家に帰省する予定だ。親子でカレンダーを見ながら、その日を待ちわびている。
 原発事故で今年は1カ月を超える長い休みになる。自分は仕事で1人残る。
 「野や山、川で伸び伸びと遊び、不安定な気持ちが少しでも落ち着けば...」。子どもの心がほぐれることで、自分を責める気持ちも少しは和らぎそうな気がする。