放射線との戦い(6) 「健康」どう守る 長期の県民調査に課題も

猪苗代町の避難所で県の担当者から調査の問診票の説明を受ける飯舘村民=6月30日

     県民健康管理調査の詳細をまだ多くの県民は知らない。
 県は新聞広告などで調査の概要を説明し、被ばく量の推計に必要な「いつ」「どこに」「どのくらい居たか」などの行動記録を記憶が薄れないうちに書き起こしておくよう求めている。
 先行調査の対象となる浪江町、飯舘村、川俣町山木屋地区の2万8000人に対し、県は避難先などで説明会を開き、住民の疑問に答えている。しかし、それ以外の県民向けに記入用紙送付が始まるのは8月。県から調査全般について委託を受けている福島医大は、事務量を平準化するため1度に送るのではなく分割する。手元に届くのがずいぶん遅くなる県民もいる。
 「3月のことなど思い出せない」という県民は多い。調査を担当する県健康増進課の小谷尚克主幹は「できたら県のホームページから用紙を印刷して、早めに記入しておいてほしい」とも語る。
 今回の東京電力福島第一原発の事故では、避難や食物の摂取制限が行われ、身の回りの放射線も以前より低減している。そのため行政や多くの専門家は県民に深刻な健康被害は出ないと考えている。
 しかし政府に「直ちに影響はない」と言われて「いつか何かあるのではないか」と思うのも人の心だ。県はその不安の解消と将来にわたる健康管理を目的に、全県民対象の調査を行うことにした。
 個人の被ばく線量を計算するためには放射線量の高かった時期に、どこでどれだけの時間を過ごしたかを正確に把握する。それに各地で計測されてきた放射線のデータなどを当てはめて推計する。
 得られた被ばくデータと、今後数10年継続して管理する個人の疾病の関連を調べ、被ばくしていない集団と比較することで放射線が県民の健康に影響を与えたかどうかが浮かび上がる。「コホート(群)研究」という疫学の手法だ。セシウム137の半減期は30年。県民は寿命の長い放射線といや応なく付き合っていくことになる。

     県の調査の考え方に疑問を呈する立場もある。
 福島大の教員有志でつくる「福島大学原発災害支援フォーラム」は3日、声明を出した。着手の遅さを批判するとともに、不安の解消という目的の1つについて「『県民の被ばく量など健康に影響を与えるほどのものではない』という結論が先にあるように見える」と指摘した。専門家間でも意見の分かれる低線量被ばくの健康影響を軽んじているのではないか-というのだ。
 会員である石田葉月共生システム理工学類准教授(42)は「内部被ばくが発見されたら不安だ。県には例えば放射性物質を早く体外に排出する方法を示してほしいし、継続的な検査で効果を見せてほしい。調査の基本に余計な被ばくを少しでも減らすという姿勢があるべき」と主張する。
 日本人の死亡原因の3分の1を占めるがんの予防や医療の対策を立てるため、がんの実態や治療成績などの情報を正確に蓄積する地域がん登録という仕組みがある。昨年度、登録したばかりの本県にとっては、今回の放射線の影響を過去や全国と比較するデータが乏しいという事実もある。
 県の小谷主幹は「被ばくのリスクがあったとしても、調査によって全県民を継続的に見守り、全体としてのリスクを減らしていくことでがんの早期発見や県民の健康、長寿につなげたい」と県の姿勢を説明する。