正しい情報 不安払拭 発信へ「拠点」必要

福島大を中心に県内の市町村、各種団体の関係者が参加した調査団は、10月31日から今月6日まで7日間にわたりチェルノブイリ原発事故で被害を受けたベラルーシ、ウクライナ両国を視察した。「最悪のアクシデント」として歴史に刻まれた、あの時から四半世紀。日常生活では目に見えない放射線との闘いが続き、汚染された故郷に戻ることのできない住民の姿があった。東京電力福島第一原発事故という同じような原発の大難に見舞われた県民が学ぶべきは何か-。福島への教訓を探る。(本社報道部・渡部 純)
「情報センターが放射線についての正しい情報を発信してくれる。だから、お母さんたちは、とても安心できている」。チェルノブイリ原発の東約20キロに位置するベラルーシのコマリン地区。政府が設置している放射線情報センターに調査団を案内した通訳の古沢晃さん(ベラルーシ国立大国際関係学部日本語コース主任)が力を込めて解説した。
コマリン地区のあるゴメリ州は1986年の原発事故発生時、風向きの影響で放射性物質が飛散し、最も汚染された地域といわれる。「一体、何を食べれば安全なのか」。住民に混乱が広がり、誤った情報が飛び交った。こうした事態を踏まえ、政府は国内全域の50カ所に放射線情報センターを設けた。
食べ物の線量を測る簡易型測定器とともに関係する書物を備え、訪れる住民にスタッフが放射線に関する正しい知識を伝えている。地域で「安心」を確保するための拠点だ。
コマリン地区の情報センターには近所の主婦らが毎日のように農産物を持ち込んでくる。検査する検体は年間700~800件に上るという。子どもや住民に測定器の使い方も教えている。フェドシエンコ・アナスタシア所長は元畜産農家で、キノコとニンジン、牛乳の放射線量の測定を実演しながら「家庭では政府の基準値を下回っている安全な食材だけを調理している」と強調した。
旧ソ連時代に起きた原発事故では、住民への情報発信が遅れたと指摘されている。ベラルーシのチェルノブイリ事故問題情報センターベラルーシ支部長を務めるトラフィムチク・ゾーヤ・イワノヴナ氏は「情報不足が国民を不安にさせた。正しい情報を発信することが、いかに大切かを思い知った」と明かす。
調査団に加わった県復興・総合計画課の松崎浩司課長は「こうした施設が全国各地にできれば、本県の農作物に対する風評被害の払拭(ふっしょく)につながる」と情報センターの機能を評価する。
通訳の古沢さんは山形県村山市出身で、古里に福島県民が避難している実態を聞いている。「日本にも情報センターのような施設がほしい。不安の払拭につながり、避難者も少しずつ福島に戻れるのでは」と話した。