【生産】 国主導で営農支援 土壌改良し検査重ねる

チェルノブイリ原発事故によってベラルーシとウクライナが被害を受けてから27年。土壌から今も放射性物質が検出される。食の安全確保に向け「生産」「流通」「消費」の各段階で国主導による徹底した検査と安全対策が続く。東京電力福島第一原発事故に見舞われた福島でどう生かせるのか-。福島市の視察交流事業派遣団が見た現地の取り組みを紹介する。(本社報道部・鈴木仁)
広大な農場に放たれた家畜が悠々と草をはむ-。ベラルーシ・ゴメリ州ブラーギン地区。1986年の事故では同国最大級の被害を受けたとされるが、緑豊かな風景に、その面影はない。「何もしなければ、この土地は荒れ果てていた。恐れるだけでは将来が見いだせない」。着古したタンクトップ姿の農場経営者ユーリー・シュピレフスキーさん(52)の言葉に力がこもる。
チェルノブイリ原発から北方80キロ圏の農業地帯だ。地区の3分の1は強制移住区域で立ち入りが制限された。残る3分の2の土地には約1万3000人が暮らす。農家は約4000戸。国が放射性物質除去の技術指導と厳格な検査で営農を支えている。日本とは自治制度が異なることもあり、国が一線で対応する。
シュピレフスキーさんは7年前、設備投資を補助する国の再生支援策を活用し国有地20ヘクタールで酪農を始めた。牧草の放射性セシウムは基準の1キロ当たり165ベクレルに対し、800ベクレルを超えていた。国の指導でセシウムを吸着するとされる物質「フェロシン」をまいて土壌改良し、飼料にも混ぜた。検査を重ね、牛乳の放射性物質濃度は1キロ当たり10ベクレル程度になった。国の基準100ベクレルを下回り、順調に出荷を続けている。シュピレフスキーさんは農場を見渡し「われわれは困難の解決策を知った。闘いはもう終わった」と自信に満ちた笑顔を見せた。
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ベラルーシ有数の「食糧庫」といわれるゴメリ州の農業再生は国の主導で進んだ。ブラーギン地区では農地1ヘクタール当たり、カリウムを含む60キロ余りの石灰を投入し、植物への放射性物質の移行を抑えた。国は今も試験農場で土質や動植物の研究を続け、農家に家畜の放牧や作物栽培の安全対策を指導する。
地区内には土壌や飼料、生産物の放射性物質濃度を検査する施設が6カ所整備されている。生産段階での検査に重点を置き、きめ細かく安全性を確認した産品はゴメリ州を中心に出荷されている。野菜などの生産物は検査が抽出にとどまる本県の出荷態勢とは一線を画す。
また、牛乳や牛肉に含まれる放射性物質が基準値を超えた場合、汚染されていない餌を与え続けることで基準値以下にするという。さらに、4年ごとの調査で土壌の汚染を把握し、国が生産の可否を判断している。国の出先機関の担当者は「問題が生じれば関係機関と連携して対応する」と強調した。
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土壌汚染に関し、本県では平成23年度に県が農地2618地点を測定し、国と連携して地図にした。25年度に更新予定だが、長期的な検査態勢や利活用など行政の方針は明確になっていない。土壌の放射性セシウム対策についても吸着効果があるとされるプルシアンブルーなどの効果を研究しているが、普及には至っていない。団員の農業油井妙子さん(63)は「ベラルーシは安全確保に向けた国の方針と取り組みが一貫している。本県でもきめ細かい態勢づくりが必要だ」と指摘した。
※チェルノブイリ原発事故
1986年4月26日、旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発4号機が試験運転中に爆発した。隣接するベラルーシやロシア、欧州など広範囲が放射性物質で汚染された。原発事故の深刻度を示す国際評価尺度は東京電力福島第一原発事故と同じ、最悪の「レベル7」となっている。
