復興への闘い 震災3年の現実(2)第1部 市町村の苦悩 住民の不満選挙に

平成25年11月17日。東日本大震災発生後初めて行われた福島市長選で、有権者が復興加速のかじ取り役に選んだのは、新人の小林香(54)だった。小林は7万2441票を獲得。4選を目指した現職の瀬戸孝則(66)に2倍以上の差をつけた。
市長選告示前、福島民報社が実施した世論調査で、市民が最優先課題に挙げたのは「早期除染」だった。瀬戸は未曽有の震災と東京電力福島第一原発事故に対応した実績、除染のさらなる加速を訴えた。小林は除染の進め方が復興を遅らせていると批判した。
除染業務を指揮する市除染推進課長の荒井政章(54)は、選挙結果を報じる朝刊を手に複雑な思いにとらわれた。争点の一つとされた除染への関心の高さをあらためて見せつけられたからだ。
街頭演説が続いた選挙期間中も除染推進課への苦情は相次いだ。「いつ、俺の家に作業員が来るんだ」。職員は、市ふるさと除染計画に基づき、放射線量が比較的高い市東部の地域を優先して順次、着手している-と伝えた。建物の外側全てを除染対象とするため、他市に比べて住宅一戸当たりの除染に時間がかかっていることも説明した。受話器の向こうの市民に頭を下げ続けた。
荒井自身、不満が市民に渦巻いていることは承知していた。「放射線に不安を感じて除染を急ぎたい気持ちはよく分かる。しかし、同じ市民だからこそ、その場限りの対応はできない。市の方針を丁寧に説明するしかない」
だが、選挙結果に表れた数字は、市民の抱える不満やいら立ちが荒井ら職員の想像をはるかに超えていることを物語っていた。口には出さないものの、部下も除染をめぐる市民の厳しい評価を感じていた。
市中心部から南西にある吉井田地区。住宅地と耕作地が広がる。山や林はなく、除染で出た土壌などの廃棄物を一時保管する仮置き場の設置場所はまだ決まっていない。
同地区自治振興協議会長の森口国一(82)は「漠然とした停滞感、閉塞(へいそく)感に対する市民の鬱憤(うっぷん)が募った結果なのだろう」と市長選を振り返る。「県外に国が造るとしている廃棄物の最終処分場が決まらず、それまで長期間保管する中間貯蔵施設建設の検討も緒に就いたばかり。国への不満をぶつける先が、身近な行政だったんじゃないか」
森口の住む地域は、まだ除染も始まっていない。福島市は他市に比べて除染の発注、実績が多いと言われても実感は持てない。
市は仮置き場の確保に苦労している。支所単位に約20カ所を設置する予定だが、市長選告示の時点で、めどが立っていたのは7カ所にすぎなかった。(敬称略)