復興への闘い 震災3年の現実(4)第1部 市町村の苦悩 国は口蹄疫教訓に

新年最初の日曜日となった5日、福島市清水地区の公園に、親子連れの笑い声が響く。信夫山の麓から西側に広がる住宅密集地。東京電力福島第一原発事故に伴う住宅除染で出た土壌などを一時保管する、地区の仮置き場の設置場所は決まっていない。
住民は積極的に候補地を探した。候補に挙げたのは、地区を流れる一級河川・松川の河川敷。市も住民の案に賛同した。住民と市から設置の相談を受けた国土交通省の回答は「許可はできない」。同省職員は「河川法では、河川敷に障害物を置けない。仮に特例で認めるにしても、増水すれば河川敷が水に浸り、仮置き場の安全性に影響する。水の流れを変え、洪水も誘発しかねない」と2次被害の心配を理由に挙げた。その後、他地区からも河川敷活用を求める声が市に寄せられている。
清水地区自治振興協議会長の安斎保昌(76)は「国にも言い分はあろうが、住宅地は空いた土地が少ない。原発事故収束に責任を持つと公言した国が、積極的に土地を提供するぐらいの姿勢を示さなければ仮置き場の問題は到底、解決しない」と言い切る。
平成22年4月に宮崎県で発生し、国中を揺るがした口蹄(こうてい)疫問題。同県全体で牛や豚など約29万頭が殺処分され、そのうち、約6割に相当する約17万頭が畜産地帯の川南町に集中した。管轄する農林水産省に対し、地元からは「国の危機なのに動きが遅い」と批判が出た。
殺処分した農家への国の補償が一つの焦点になった。国の対応は遅く、方針が示されたのは感染確認から1カ月後の5月20日だった。その間にも感染は拡大した。当時から町の農林水産課長を務める押川義光(54)は、国の対応への憤りを今も隠そうとしない。「補償が確定しなければ、生産者は生活の糧の家畜を手に掛けることなんてできない」
処分された家畜を埋める場所の確保は全て町が担うことになった。「国も前面に出てほしい」。押川らの訴えは届かなかった。一刻を争う被害の拡大を防ぐため、押川ら町職員は昼夜を問わず、適地を探し回った。候補地を見つけても、異臭や地下水汚染への影響を懸念する周辺住民の反対に遭った。場所の確保は難航する。結局、各農家を説得し、それぞれの敷地内に埋めることにした。埋めた場所は162カ所に上った。
除染廃棄物の仮置き場確保で、郡山市は住宅の除染で出た廃棄物を中間貯蔵施設が完成するまで全て各自の庭などに保管し、施設の完成後に直接運び出す方針を掲げた。仮置き場の適地がなかったための苦渋の判断だ。
国は中間貯蔵施設への廃棄物の搬入を27年1月に開始するとの計画を示しているが、建設受け入れの可否をめぐる議論は始まったばかりで、先行きは不透明だ。市原子力災害総合対策課の担当者は「予定通り進むことを前提に、住民から現場保管の同意を得た。完成が遅れては困る」と焦りをにじませる。
押川は、口蹄疫で苦しんだ当時を振り返り、言葉に力を込める。「口蹄疫と原発事故では災害の性質が異なるが、市町村で対応できる範囲を超えた事態というのは共通している。国家的な有事の対応は、国が旗振り役になるべきだ」(敬称略)