復興への闘い 震災3年の現実(5)第1部 市町村の苦悩 「物差し」なく混乱

環境省が除染対象や手法などをまとめた「除染関係ガイドライン」。統一基準はなく、何を選択するかは市町村の裁量となっている

 環境省福島環境再生事務所は福島市のJR福島駅東口近くのビルに入っている。東京電力福島第一原発事故に伴う除染のうち、双葉郡など国直轄除染地域以外の市町村を対象とした除染の相談、指導に当たる職員は約30人いる。「国が前面に出て説明してほしい」。住民説明会への出席要望が市町村から今も続く。
 除染作業や、除染で出た廃棄物の仮置き場確保に関する住民説明、事業発注は全て実施主体の地元市町村に任せている。同事務所市町村除染推進室長の松岡直之(50)は理由を説明する。「住民にはさまざまな思いがある。地元の事情に詳しい市町村にお願いする方が、話がまとまりやすいと考えている」

 市町村の除染、仮置き場確保事業の「よりどころ」となるのが、平成23年12月に環境省が策定した「除染関係ガイドライン」だ。25年5月に改定した。
 住宅や公共施設などの除染対象、屋根の高圧洗浄や宅地の表土除去といった除染方法が列挙されている。ただ、実際にどういった方針で除染を進めるかは市町村の判断に任せており、統一基準のような「物差し」ではない。
 環境省が統一基準を示さない理由を松岡は次のように解説する。地域によって放射線量は異なり、都市部と農村部では家屋の形態、庭の広さなども違う。「一律に『除染はこうあるべき』とは言えない」
 ガイドラインに沿った方法、対象であれば、国の財政支援が受けられる。「取捨選択するのは市町村の自由。われわれが縛るものではない」。除染する場所の優先順位の付け方、除染方法の選択などは、市町村の裁量次第という考えだ。ただ、事業のメニューを示し選ばせる方法は、従来の補助事業と何ら変わらない。
 ガイドラインに従い、可能な限り全ての箇所を除染する福島市に対し、郡山市や伊達市は屋根やベランダを省いて除染の迅速化を目指す。郡山市原子力災害総合対策課の担当者は「屋根などは線量が低い。全てを除染できれば100点満点なのだろうが、限られた人員、時間の中では効率的に進めるしかない」と割り切る。
 原発事故から2年10カ月が経過した今も、市町村の対応には、ばらつきがある。他市町村と除染の手法や速さが異なる事態が生じ、住民から苦情が絶えない要因になっている。

 市町村の仮置き場設置の考え方もさまざまだ。伊達市は町内会単位に設けることを選択した。1カ所で保管する除染廃棄物の量を極力少なくし、周辺住民の精神的負担、反発を軽減する狙いがある。住民の理解は比較的得やすく、88カ所に設置した。ただ、廃棄物が身近にあることに対する住民の不安は消えていない。
 それぞれの市町村が最良の選択と信じ、除染を進めている。市町村によって進捗(しんちょく)に差はあるが、除染事業そのものに県民の理解は得られている-。県内で現職市長の落選が相次ぐまで、松岡はそう考えていた。(敬称略)