復興への闘い 震災3年の現実(6)第1部 市町村の苦悩 国の対応に戸惑い

平成25年に郡山、いわき、福島、二本松各市で行われた市長選で現職が相次いで落選した。「東京電力福島第一原発事故の除染の遅れに対する有権者の不満が要因の1つとなった」。環境省福島環境再生事務所市町村除染推進室長の松岡直之(50)は、現職敗戦の報を聞くたびに、自分たちの進め方が否定されていくような気がした。
11月の福島市長選後、同省は動いた。12月5日に郡山市で開いた県内の市町村担当者との意見交換会。双葉郡など国直轄除染地域を除く40市町村の汚染状況重点調査地域で除染方法の簡素化を推奨した。「地元任せ」にしてきた住宅除染を加速化させるためだ。出席者の中で複雑な思いを抱いたのは屋根から庭まで建物、敷地内の全てを除染してきた福島市の職員だった。「方針転換した場合、住民にどう説明すればよいのか」
県内の市町村の多くは同省が示した除染ガイドラインを参考に、比較的線量が高い地域向けの方法で除染している。ガイドラインの除染対象に屋根や外壁、ベランダ、窓枠など住宅の全てが含まれる。福島市はこの手法を続けてきた。
簡素化した工程では、屋根やベランダを除染せず、線量が低ければ庭の土も取り除かない。松岡は「時間が短縮でき、除染の迅速化につながる」と強調する。
ガイドラインは簡素化した方法を標準的手法として位置付けていなかった。松岡は「原発事故から2年10カ月が経過し、線量は徐々に低下してきた。時間と手間をかけて住宅全体を除染する方法を続けるより、局所的に重点除染した方が作業が格段に進む」と理由を説く。各市町村の住宅の除染作業を早期に一巡させ、住民の不満を和らげたいとの思いがある。
既に郡山、伊達両市など一部の市町村は屋根などを省略し、放射性物質が集まりやすい雨どいなどを集中的に除染する手法を選んでいる。
福島市では、早期除染を訴える住民に対し、「安心感を得るためにも丁寧な除染をしている。順番が来るまで待ってほしい」と頭を下げてきた職員もいる。「今も徹底した除染を望む住民は多い。除染を始めてから3年近く経過した今になって、簡素化した除染で十分と言われても...」。住民からの反応を心配する。
福島市長になった小林香(54)は、市長選の公約で除染の加速化を掲げた。7日の年頭記者会見では、低線量地域においては新たな除染手法を検討する考えを示した。
県内の市町村職員は管内の除染作業と、仮置き場の確保に奔走する中で疲労の色を濃くしている。
汚染廃棄物の対応をめぐる課題もある。避難区域となり、全村避難している飯舘村は、放射性物質を含む下水汚泥や稲わらなどを村内はもとより、村外からも受け入れる決断をした。(敬称略)