復興への闘い 震災3年の現実(8)第1部 市町村の苦悩 消えない住民不安

平成24年夏、除染廃棄物の焼却減容化施設建設の候補地に挙がった飯舘村蕨平(わらびだいら)行政区の住民説明会が福島市で開かれた。「安全性が信用できない」。村や環境省による施設の説明に住民からは反発する声が上がった。
村は施設の安全性や必要性の他、村民が避難している周辺6市町の下水汚泥を受け入れる構想を明かし、建設する意義を訴えた。東京電力福島第一原発事故発生以降、放射性物質を含んだ汚泥は、県内の下水処理施設で処理できずに敷地内にたまり続けていた。1キロ当たり8000ベクレル以下なら産業廃棄物管理型処分場で埋め立てられるが、周辺住民の反対に遭い、どの処分場でも埋設できていなかった。8000ベクレル超の汚泥は国が処理することになっているものの、処分先が見つかっていなかった。
こうした状況の中での説明会だった。「お互いさまの精神で」という村の呼び掛けにうなずく出席者もいたが、放射性物質が再び村を汚染するのでは、との住民の不安は消えなかった。
施設の安全性をどうすれば理解してもらえるか─。除染をはじめ、減容化施設の説明を担う村復興対策課長の中川喜昭(55)は頭を抱えた。住民を納得させられる専門的知識を持つ職員はいなかった。
24年4月に村復興対策課に派遣された国際農林水産業研究センター(茨城県つくば市)研究員の万福裕造(41)に白羽の矢が立った。センター勤務時は原発事故を受けて、放射性物質がどのように農作物に移行するかを研究していた。放射性廃棄物の処理方法にも明るかった。
万福は25年1月から、蕨平行政区の集会や役員の避難先に何度も足を運び安全性を説いた。少人数への説明を心掛け、住民の不安一つ一つに答えた。しかし、言葉では限界があった。「稼働している廃棄物処理施設を見てもらおう」。中川は提案に賛成した。万福は3月、香川県直島町にある、不法投棄された廃棄物の溶融処理施設に蕨平行政区の役員7人を案内した。
施設は瀬戸内海に浮かぶ島にあった。敷地は約8000平方メートル、廃プラスチックなどの廃棄物を1日当たり約200トン処理している。
視察した蕨平行政区長の志賀三男(56)らの関心は、排ガスに含まれる発がん性物質のダイオキシンや重金属の粒子を除去する高性能排ガス処理装置(バグフィルター)の性能に向けられた。村が検討していた減容化施設でも導入する予定だった。
バグフィルターは長さ6メートル、直径10センチの円柱状で、排気筒に480本納められている。案内した施設の担当者は、バグフィルターの排ガス出口にある長さ50センチの金属製の棒を取り出し、布で拭き取った。「ほぼ100%除去できる」。布に汚れは一切付いていなかった。
万福は付け加えた。「放射性セシウムの原子核はダイオキシンより約10倍大きい」。セシウム排出の危険性がほぼないことを強調した。視察後、役員の考えは受け入れに傾いた。
志賀は「村民がお世話になっている市町のためにも建設を容認すべきではないか」と呼び掛けた。多くの住民が賛同した。10月、蕨平の住民は村に受け入れる意向を伝えた。
一方で環境省へ徹底した安全対策を求めるよう村に注文した。国に対する不信感の表れだった。(敬称略)