いら立ち(下) 政府は何すべきか 被災地軽視怒り覚える

■東京新聞 政治部 中根政人記者 39
東日本大震災の発生から間もない平成23年8月に政治部へ異動し、復興事業に取り組む政府や関係省庁の取材を続けてきた。
被災者の生活再建が思うように進まない中、日増しに膨らんでいった思いがあった。「政治家や官僚は、被災地の苦しみを真剣に受け止めているのか?」。そうした疑念が確信に変わったのは、一昨年に野田政権の下で発覚した復興予算の不適切使用問題だった。
最優先に救済すべき東北の被災地ではなく、遠く離れた沖縄の国道整備に予算が使われていた。被災地をかすめるようにして南極海の調査捕鯨に使われた予算もあった。そして極め付きは、核融合研究や海外への原発輸出の調査にも復興予算が回っていたことだ。
東京電力福島第一原発事故を伴った震災の予算を、新たな原発の建設や原子力研究の推進に"流用"した政府や中央省庁の無神経さ。原発事故で避難した被災者にとっては侮辱でしかなく、言いようのない怒りを覚えた。
だが、各省庁の反論は「政府が定めた使用基準を満たしているから問題ない」の一点張り。罪の意識をみじんも感じていない内容で、怒りやいら立ちをさらに増幅させた。
政府が国民に増税を求めて確保した復興予算は、「活力ある日本の再生」を名目に、各省庁が日常的な事業を進めるのに都合のいいお金に化けていた。
政府は「復興の加速化」という言葉を多用する。野田政権から安倍政権に変わった現在もその点は同じだ。だが、予算を適切に被災地へ使わず、復興の遅れを助長してきたこれまでの無気力な姿勢と重ね合わせると、にわかには信用し難い。
安倍政権の下では、被災地を軽視するかのような政治家や官僚の発言が相次いできた。自民党幹部は「福島第一原発事故で死者が出ている状況ではない」と言い放ち、震災関連死の存在を黙殺した。ネット上では、復興庁幹部が政策実現に消極的な本音を吐露。経済産業省の官僚は、震災を"過疎地の災害"と軽蔑した。
東京では、震災の記憶が風化しつつあるのを実感する。復興予算の取材と並行して、被災地に直接出向く機会も増えた。現地で被災者から聞く声は、前向きなものばかりではない。今も頭から離れないのは、集落の高台移転の遅さを嘆き「仮設住宅で寿命が尽きるのか...」と訴えた高齢男性の言葉だ。
被災地が望む復興を進めるために、政府は何をすべきなのか。これからも、政策の中身に厳しい目を向けていきたい。
■復興予算の不適切使用
地震や津波、東京電力福島第一原発事故で被害を受けた被災地とは関係のない事業に政府の復興予算が使われていた。原子力関連事業や調査捕鯨に加え、被災地以外の中央省庁の庁舎改修などにも使われた。政府は平成25年度以降、使途を被災地中心に絞り込んだが、24年度当初予算までの一部が地方自治体の基金などを通じて被災地と無関係な事業にも回っていた事実が新たに発覚した。