(1)廃炉 安全最優先に技術開発 原子炉容器など長期保管

東京電力福島第一原発事故を受け、ドイツとスイスで脱原発の流れが加速している。廃炉には解体・除染の安全性や技術開発が求められ、長い年月を要する。使用済み核燃料など高レベル放射性廃棄物の最終処分場の確保が難航する中、いかに安全に保管するかも各国共通の悩みだ。県議会の海外行政調査団(A班)が訪問したドイツ、スイスの現状を追い、福島第一原発の廃炉、脱原発に向けた課題を探る。(本社報道部副部長・紺野 正人)
ドイツ北東部のバルト海沿岸部にあるグライフスヴァルト原発。東京ドーム42個分に相当する約200ヘクタールの広大な敷地に、廃虚と化した原発群が広がっていた。
東西ドイツが統一した1990年に廃止が決まり、5年後の95年から、稼働していた1~4号機と試運転中だった5号機の解体・除染作業が始まった。世界最大級の廃炉作業を担っているのは、旧東ドイツ時代に原発を管理運転していたノルト・エネルギー社(EWN)だ。2000年にドイツ連邦財務省の100%子会社となった。
同社によると、現在、約700人の従業員がいる。原発が廃止された当時の約千人と比べると少ないが、運送会社などの関連企業が進出し、新たな雇用を生んでいる。州の失業者も減った。周辺に家を建てて住み着くケースもあり、グライフスヴァルトの人口は原発廃止前よりも増えているという。
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「20年近くにわたる廃炉のノウハウは計り知れない」。EWN社の広報責任者で、インフォメーションセンター所長のハルトムート・シンデルさんはこれまでの歩みを振り返る。作業員の安全を最優先に、除染や管理方法の検討、遠隔操作で作業するための装置の開発などを進めた。
除染作業は、原発が稼働していた際に修理工場だった中央作業所で行われている。2千気圧の高圧の水噴射で放射性物質を洗い流す、ステンレスの細かい粉を吹き付けて表面を磨く、強い酸などの液体に浸して表面を洗う...。除染を終えたものは、検査場に運ばれ、汚染度がチェックされる。基準を下回れば、金属を中心にリサイクル業者に売却する。一方、基準を超えれば、再び除染場に戻されるか、いったん中間貯蔵施設に送られ、放射線量が下がるまで保管される仕組みだ。
中間貯蔵施設内は線量のレベルに応じてフロアが分かれている。減容化するため、できるだけ細かく切断し、特殊な容器に入れて密封状態で保管している。「外に漏らさないためには容器に閉じ込めるしかない」。シンデルさんは言い切る。
ただ、核燃料が納められていた原子炉容器や、原子炉を取り囲んでいた蒸気発生器などは線量が高く、除染のための切断作業ができない。巨大な姿のまま線量が下がるのを待っている。それぞれに2メートルの距離の線量が記されており、今なお毎時50マイクロシーベルトと高線量の原子炉容器もある。長い年月を要する廃炉作業には、原発構内の中間貯蔵施設が果たす役割は大きい。
県議の一人は「グライフスヴァルト原発と、過酷事故で廃炉となる福島第一原発では事情は違うが、作業の安全性をいかに確保するかという点で相通じる」と語った。
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これまでに解体で出た廃棄物は180万トンに上る。このうち、約7割に当たる123万5千トンは金属類を中心にリサイクル業者などに引き渡された。約3割の56万5千トンは中間貯蔵施設に回された。
56万5千トンのうち、使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物は1万6千トンで、全体の1%未満にすぎない。
運転停止時には5千本を超す使用済み核燃料があった。冷却プールに移した後に「キャスク」と呼ばれる容器に入れ、中間貯蔵施設に運び込む作業に12年を費やした。「全体の量から見れば量は少ないが、危険度ははるかに高い」。EWN社の幹部は強調する。だが、最終処分のめどは立っておらず、今なお施設内で保管されているのが現状だ。ドイツには高レベル放射性廃棄物を集中的に保管している施設がある。
※グライフスヴァルト原発
旧ソ連の技術による加圧式の旧東ドイツの原発。1974年に1号機が運転を開始した。90年の東西ドイツの統一に伴い、旧ソ連製の原発はEUの安全基準にそぐわないなどとして、旧東ドイツの全ての原発の廃止が決まった。当時、4基が稼働中、1基が試運転中、3基の建設が進められており、計8基の巨大な原発基地になる計画だった。