(2)中間貯蔵施設(上) 反対根強く搬入難航 正しい情報提供に腐心

ドイツの首都ベルリンから北西に170キロ離れたニーダーザクセン州リュッヒョウ・ダンネンベルク郡にあるゴアレーベン。人口千人足らずの自治体に、使用済み核燃料と、使用済み核燃料の再処理に伴い、フランスとイギリスから返還されてくる「ガラス固化体」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物を集中的に管理する中間貯蔵施設がある。
大手電力会社4社が出資する原子力サービス会社(GNS)が1984年に操業を始めた。「輸送・貯蔵用キャスク」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物を納めた巨大な容器113体が保管されている。
広報担当のユルゲン・アウワーさんによると、使用済み核燃料の受け入れは1995年から始まった。しかし、輸送への反対運動が強まり、5体しか搬入されなかった。ガラス固化体は2011年までに5回にわたり108体が搬入されたが、昨年、連邦政府とニーダーザクセン州の合意に基づき、搬入停止が決まった。施設には420体の容量があるが、新たに運び込まれることはないという。
一方で、今後も外国で処理されたものが返還されてくるが、保管場所の確保は宙に浮いたままだ。
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地下一帯には「岩塩ドーム」と呼ばれる地層が広がっている。1970年代から高レベル放射性廃棄物の最終処分の候補地として掘削などの探査活動が行われてきた。隣接地に立て坑などの探査施設がある。しかし、安全性を疑問視する声が高まり、連邦政府は昨年、探査を終了し、候補地選定は白紙に戻った。
中間貯蔵施設に保管している高レベル放射性廃棄物は当初、40年後には最終処分場に運び出す計画だった。連邦政府は2031年までに最終処分場の場所を決める方針だが、完成時期は見通せないのが現状だ。アウワーさんは「最終処分場ができるのは50~60年先になるだろう。そのころには、より安全に地下に埋設する容器が開発されているはずだ」と期待した。
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「キャスクが運ばれてくるたびに国内、近隣諸国から反原発派やデモ隊が押し寄せ、反対運動に遭った」。県議会の調査団と懇談した前カルトー市長のウィルヘルム・シュレーダーさんは振り返る。「危険なものをたくさん貯蔵している」。欧州でもゴアレーベンだけが攻撃の的になった。
施設周辺とゴアレーベンの市街地の合わせて5カ所に空間放射線量の計測地点があり、定期的に結果が公表されている。年間追加被ばく線量1ミリシーベルト以下が施設の認可基準だが、それよりも厳しい0・3ミリシーベルト以下の独自の基準を設定しモニタリングしている。これまでに独自基準を一度も上回ったことはない。
だが、一部の報道で、実際より高い誤った情報が流されることもあり、正しく報道されているか常に目を光らせているという。公表結果を信じない反対派もおり、施設側は、反対派と一緒に測定し、納得してもらう取り組みも行っている。
中間貯蔵施設への理解を促し、最終処分場ができるまでいかに安全に保管するか―。スイスでも独自の取り組みが進められている。(本社報道部副部長・紺野正人)
※ドイツの原子力エネルギー政策
連邦政府と主要電力会社は2000年に原発からの段階的撤退などについて合意。2002年に全面改正された原子力法では、商業用原発の運転を原則32年間に制限するとともに、今後の原子力発電の総量を設けた。2009年に成立した現連立政権は、脱原発政策を維持しつつも、運転中の原子炉17基の運転期限を平均で12年延長する改正案を成立させた。しかし、東京電力福島第一原発事故を受けて連邦政府は、1980年以前に運転開始した8基を即時閉鎖し、残る9基も2022年まで閉鎖するとしたエネルギー政策の見直しを決めた。