(3)中間貯蔵施設(下) IAEAと連携で監視 見学受け入れ情報開示

スイスのヴュレンリンゲン中間貯蔵施設は北部のアールガウ州にある。2001年にできた、欧州でも比較的、新しい施設だ。
原発を保有する電力会社が出資するZWILAG社が操業している。「ZWILAG」は「原発と最終処分場の間」を意味する。使用済み核燃料や、国外での再処理に伴って返還される「ガラス固化体」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物、中・低レベルの放射性廃棄物を、最終処分場ができるまで貯蔵する施設だ。高レベル放射性廃棄物の貯蔵容量は輸送・貯蔵用キャスク200体分で、既に約40体を保管している。
一つのキャスクには、加圧水型原発で37本、東京電力福島第一原発と同じ沸騰水型原発だと69本の使用済み核燃料が納められる。キャスクの密閉作業は国際原子力機関(IAEA)の立ち会いの下、行われる。保管している建屋内の監視カメラはウィーンのIAEA本部とつながっており、本部でも常時、映像で監視できる態勢を取っている。
所長のバルター・ヘイプさんは「崩壊熱がなくなるのが40年といわれている。長期間、保管しても問題がない態勢を整えている」と安全性を強調した。
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施設内にはインフォメーションセンターも設けられている。施設の概要や業務内容を紹介するパンフレットやDVDが置かれ、見学者に配布している。
ZWILAG社は施設の必要性を理解してもらうため、住民の見学を受け入れてきた。毎年、数千人が訪れている。学校の授業の一環で訪れるケースも多く、ヘイプさんは「学校で放射線などを学ぶ子どもたちが先生と一緒に見学に訪れるのは意義深い」と話す。
施設の建設に当たっては、大規模な公聴会を開き、理解を求めた。大きな反対はなかったという。県議の一人は「高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設と、県内に建設が計画されている除染廃棄物の中間貯蔵とでは性質が異なるが、丁寧な住民説明と積極的な情報公開が必要だ」と指摘した。
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スイスも、ドイツ同様に高レベル放射性廃棄物の最終処分先は決まっていない。
電力会社と政府でつくる放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)は、スイス北部の地下400~900メートルの場所への最終処分を検討している。約1億8千万年前のジュラ紀に形成された「オパリナス粘土」と呼ばれる堆積岩を母岩とする地層だ。県議会の海外行政調査団B班が訪れたモン・テリ岩盤研究所で、母岩への熱の影響などを調べる研究が進んでいる。
最終処分の候補地は6カ所ある。計画では、2019年ごろに設置場所を決定し、2050年ごろに操業を開始する。NAGRAマネジャーのハインツ・サガさんは「処分場を近くに持ちたくないというのは、どこの国も同じ。人々の中に入って行き、なぜ必要なのかを説明しなくてはならない」と訴える。
連邦エネルギー庁は、住民の理解を得るため、候補地ごとに自治体や経済団体、住民らによる「地域会議」を設けた。最終処分場の設置に伴う問題点をまとめたり、地元の要望を提示したりする活動をしている。ただ、活動に対する戸惑いや時間的な負担を感じるメンバーは少なくないという。
最終処分場の確保を目指す一方で、国内では再生可能エネルギー導入の動きが加速している。(本社報道部副部長・紺野正人)
※スイスの原子力エネルギー政策
東京電力福島第一原発事故を受け、2011年5月にドイツに先駆けて脱原発を表明。原子炉が安全に運転可能な期間を50年とし、その期間に達した原子炉を順次停止し、再稼働はしないとする「エネルギー戦略2050」を閣議決定した。議会は同年12月に原子炉の新設を禁止する動議を可決した。国内の原発は5基で、日本の約10分の1。ベツナウの1号機は世界で稼働している原発の中で最も古い。
