(3)【第1部 中山間地で】西会津町奥川地区(3)安心つなぐ診療所

岡崎医師の診察を受ける伊藤さん(左)。「地元に医療機関があるだけでも安心」と語る
岡崎医師の診察を受ける伊藤さん(左)。「地元に医療機関があるだけでも安心」と語る
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 西会津町奥川地区にある国民健康保険奥川診療所に通常の約三倍の三十人が訪れた。昨年十二月二十六日は年内最後の診療日だった。「血圧が安定してっから最近は調子がいいんだ」。地区内に住む伊藤重人(69)の声が診察室に響く。診察する医師岡崎栄和(えいわ)=(51)=は血圧計の数字を確認すると、「問題ないね。お大事に」とほほ笑む。「先生、ありがとう」。伊藤がほっとした顔で礼を言う。


 奥川診療所は町内四カ所ある診療所の一つ。二〇〇四(平成十六)年、地元開業医の廃業に伴い、町が旧奥川支所内に開所した。二〇一三年、現在の新支所(旧奥川小)内に移転した。約二十キロ離れた町内登世島の西会津診療所の常勤医三人のうち一人が火、金曜日の週二日、交代で診察する。

 設備面から急患対応は難しい。奥川地区から会津若松市の救急病院まで患者を運ぶ場合、磐越自動車道を使っても一時間はかかる。冬は雪の影響でさらに搬送が遅れる心配がある。

 伊藤は町職員だった二十年ほど前から高血圧の薬が欠かせない。当初、自宅から約十キロの群岡診療所に通っていた。退職後は体力の衰えなどから地元の奥川診療所に通うようになった。「住民にとっては近くに医療機関があるだけでも安心だ」


 西会津診療所の常勤医三人のうち一人が三月末に定年退職を迎える。町は医師を募集しているが、応募はまだない。「東北はどこも医師不足が深刻だ」。西会津診療所事務長の岩渕東吾(50)は医療関係者から聞いた言葉を実感する。高齢化が進む地区の現状を考えると危機感が一層募る。

 町は二〇〇六年ごろから高齢者らの集いの場「サロン」の設立を町民に呼び掛けている。町民が週に一、二回、体操やダンスなどをすることで健康を維持し、介護予防につなげる。現在、約四十団体が活動する。町はケーブルテレビの番組を通じて栄養価の高い食事メニューの浸透にも力を入れており、住民の間に日頃の食事や運動面から健康に注意しようとの機運が高まっている。

 中山間地の医療体制充実には壁が立ちはだかる。「引き続き福島医大に医師確保を要請すると同時に、自分の健康は自分で守るとの町民の意識づくりを図っていくしかない」。町の担当者は語った。(文中敬称略)