(4)【第1部 8年余の歳月】被災地忘れないで 東京で事故題材に演劇

南相馬市小高区在住の芥川賞作家、柳美里さんによる演劇ユニット「青春五月党」による戯曲「静物画」。物語は、広野町のふたば未来学園高の演劇部員が東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生前後に体験した出来事や、過去の記憶をつむいだ。三年生の部員の新妻駿哉(としや)さん(18)が生まれ育った大熊町での思い出も織り込まれた。
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震災と原発事故発生当時、小学三年生だった。両親らと避難し、親族のいる川内村、福島市、宇都宮市を転々とした。町が役場機能を移した会津若松市で学校を再開すると、四年生の一年間を同市で過ごした。その後は、両親が自宅を新築したいわき市で暮らしている。
事故直後は戸惑いもあったが、「普通の生活」を送った。ただ、テレビのニュースを見たり、家族の話を聞いて、「大熊にはもう帰れないのかもしれない」と漠然と考えていた。
当時開校三年目のふたば未来学園高に進学したのは「双葉郡の出身者が優先して入れたから。特に大きな目的はなかった」。ただ、入ってすぐの部活動紹介で、演劇部の先輩たちに魅了された。舞台で躍動する姿が輝いて見えた。演技経験はない。入部しようか迷っていると、偶然にも演劇部の第二顧問だった担任に「やってみたら」と背中を押された。
二〇一八年初夏、思わぬ話が舞い込んだ。「青春五月党」の舞台に立てるかもしれないという。部内のオーディションを勝ち抜き、大熊町出身の演劇部員である「あゆむ」役を射止めた。
「元気がいいね」「人に感情を伝えるのがうまい」「天才」。稽古中、柳さんにほめられると、うれしくてたまらなかった。
小高区での初演は六公演全て満席となった。好評を受けて東京公演が決まった。
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今年三月、演劇部の仲間と都内の劇場に立った。東京での公演に複雑な思いを抱く部員もいた。第一顧問の斎藤夏菜子教諭(39)は「学校には東京に避難して、いじめられた生徒がいる。『東京が怖い』と話す部員もいた」と明かす。
本番が刻々と迫る。地元での上演は好評だった。しかし、福島から遠く離れている。震災と原発事故の影響はどこにも感じられない。双葉郡の状況を都会の人がどれだけ知っているのか。被災地の思いが伝わるのだろうか。「双葉郡を忘れないでほしい」。そんな思いを抱きながら、観客の前へとゆっくり踏み出した。