(9)【第1部 8年余の歳月】「国は約束守って」 除染賠償格差に憤り

中間貯蔵施設整備が進み、まちの風景が変貌した大熊町夫沢地区。右奥が鈴木さん宅。東京電力福島第一原発の敷地境界線から南に300メートルの場所にある=12月10日
中間貯蔵施設整備が進み、まちの風景が変貌した大熊町夫沢地区。右奥が鈴木さん宅。東京電力福島第一原発の敷地境界線から南に300メートルの場所にある=12月10日

 元大熊町総務課長の鈴木久友さん(67)が避難している郡山市の家には二〇一四(平成二十六)年末ごろから現在まで、二~四人組の環境省職員が四、五回は訪れた。大熊町夫沢の自宅周辺で行った地質調査の結果などを示し「中間貯蔵施設への土地の提供に同意していただけませんか」と求められた。

 しかし、今も契約書に印鑑を押していない。復興行政に最前線で携わった者として、施設の重要性は十分に認識している。それでも「国は最初の約束を守っていない。とてもじゃないが、合意する気持ちになれない」。淡々とした口調の中に憤りがにじむ。

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 二〇一二年十二月。国はそれまで警戒区域としていた町全域を空間放射線量に応じて帰還困難、居住制限、避難指示解除準備の三区域に再編した。

 その半年ほど前、鈴木さんは渡辺利綱町長=当時=らとともに、内閣府や環境省の福島復興に携わる担当者から説明を受けた。「三区域に分かれても、除染や賠償に差はつけません」と担当者は強調した。鈴木さんは日中に自由に立ち入りできることは帰還の進展につながると、国の方針を肯定的に受け止めた。町民説明会などで再編案を示されても、不安の声は特段上がらなかった。

 しかし、これまでに除染が行われたのは、旧居住制限区域の大川原地区、旧避難指示解除準備区域の中屋敷地区、帰還困難区域の特定復興再生拠点(復興拠点)だけだ。帰還困難区域の大半は手つかずのままとなっている。

 家具や家電品などの家財の賠償も帰還困難区域と居住制限・避難指示解除準備区域の間で差がついた。町が補助金名目で差額を補填(ほてん)したが、町民間に複雑な感情が生まれた。

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 退職した今でも、復興拠点を外れた地域の住民から「三区域に差をつけないと言ったはずだ」と問いただされることがある。「中間貯蔵施設を受け入れた際に、『帰還困難区域も除染する』と約束させるべきだった」と考えている。

 一方で、二〇一六年六月、町が中間貯蔵施設への町有地提供の方針を示して以降、それまで停滞していた用地取得が進むようになった。環境省によると今年十月末現在、双葉町を含めた地権者二千三百六十人のうち、土地売却や地上権設定に合意したのは千七百十九人(72・8%)に達する。

 鈴木さんの自宅近隣の町民もほとんどが同意した。「未除染地区の除染計画を示せばいつでもはんこは押すよ」。最初の約束を守ってほしいという強い思いを言葉に込めた。