(上)収集・展示資料 常設170点、どう伝える 県内外に発信、風化防ぐ

原発事故発生を伝える新聞などが並ぶ館内=5日
原発事故発生を伝える新聞などが並ぶ館内=5日

 東日本大震災の地震と津波、東京電力福島第一原発事故の複合災害が発生してから九年半が過ぎた。県が双葉町中野地区に整備を進めてきたアーカイブ(記録庫)拠点施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」は二十日に開館する。当時の記録や教訓、復興への歩みを県内外に発信する拠点としての期待が膨らむ。未曽有の被害をもたらした「3・11」の風化をどのように防ぎ、後世に引き継ぐのか-。関係者の模索は続いている。


 第一原発から北に約五キロ、海岸から約五百メートルの位置に伝承館はある。復興祈念公園の青々とした芝生が目を引き、十月一日に開館する双葉町産業交流センターが隣接している。周辺には中間貯蔵施設の受け入れ分別施設が見え、津波被害を受けた家屋が残る。被災地の復興の現状や複合災害の現場そのものを見ることが可能だ。

 伝承館開設に向け、県は約二十四万点に上る資料を収集した。県内各地に分散して保管しており、二〇二〇(令和二)年度内に同館に運び込む予定だ。常設展示スペースに並ぶ資料はこのうち約百七十点となる。地震発生や津波到達時刻で止まった時計、津波でひしゃげた道路標識、原発事故発生を伝える新聞、避難で無人となり野生動物に荒らされた家屋のふすま-などが本県の被害を伝える。

 展示品は有識者らでつくる資料選定検討委員会の意見を参考にして県が決めた。「当時の状況をより分かりやすく伝えられる資料を選んだ」としている。

 オープンを前に伝承館を内覧した関係者からは「原発事故は津波が引き起こし、多くの犠牲者を出した。その威力を伝える品があまり見られなかった」や「そもそも展示数が少ない」といった声が聞かれた。

 岩手県が陸前高田市に整備した東日本大震災津波伝承館「いわてTSUNAMIメモリアル」は約百五十点の展示だが、津波でつぶれた消防車両や、ねじ曲がった橋桁の実物など、津波の脅威を一目で伝える資料がある。兵庫県が神戸市に整備した「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」には被災資料計約八百三十点が展示されている。

 本県の伝承館では定期的に常設展示の内容を入れ替えるとしている。限られた展示場所でいかに複合災害を伝えていくべきか。来館者の反応を踏まえ、より良い展示方法を継続的に探る姿勢が求められている。

 小林孝副館長(50)は津波関連の展示について期間限定の企画展示室に四、五十点を加えていくと考えている。「(津波の脅威を示す)刺激の強い資料はあるが、見る人の心的な負担が大きいとして常設は難しいと判断したものもある」と明かす。その上で「来館者が震災と原発事故を『自分事』として捉え、考えるきっかけになる場を目指していく」と話している。