(中)語り部 実体験を生の声で 悔しさ、悲しさ伝えたい

報道機関向けの内覧で、語り部の実演をする泉田さん。元小学校長として、原発事故で避難した双葉町の子どもの思いを伝えた=5日
報道機関向けの内覧で、語り部の実演をする泉田さん。元小学校長として、原発事故で避難した双葉町の子どもの思いを伝えた=5日

 県が双葉町中野地区に整備を進めてきたアーカイブ(記録庫)拠点施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」では震災や東京電力福島第一原発事故で被災した県民二十九人が「語り部」を務める。二~四人が常駐し、実体験を生の声で来館者に伝える。

 二十九人はすでに県内の語り部団体で活動しているか、県の語り部研修会を受講した県民だ。それぞれが地震、津波、原発事故の避難を経験し、悔しさや悲しさを抱えている。語り部を指導する伝承館スタッフで前双葉南小校長の泉田淳さん(61)は「力量の差はさまざま。当初は構成を考えずに思いつくまま話して、うまく体験を語れない人もいた」と明かす。原稿に起こしてテーマを明確化させた上、週に数回、語り部が集まる機会を設けた。何度も練習を重ねるうち、上達してきたという。

 課題の一つが、原発事故による避難で複数出てくる本県の地名をいかに伝えるか、という点だ。報道機関向けの内覧で泉田さんをはじめスタッフが語り部の実演を行った際、関係者から「『双葉町から中通りの自治体に避難した』と言われても、本県の地理に詳しくない県外や国外からの来館者は理解できるのか」という疑問が寄せられた。今後、来館者に地図を手渡すなどして対応するというが、語りに集中してもらう一層の工夫が必要となる。

 震災・原発事故を知らない世代に「生の声」をどう効果的に響かせるかも課題だ。複合災害の教訓を次世代に伝え、二度と悲劇を起こしてはならない-。語り部は同じ志を抱く。ただ、被災者が語り部を務めるだけでは風化が進む。

 泉田さんは「数年、数十年先を見据えた取り組みが必要だ。今から高校生ら若手の語り部育成を手掛けたい」との思いを語る。教育者としての経験を伝承に生かすつもりだ。