(下)調査・研究、研修 確かな知見、後世に 専門家育て防災力底上げ

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 二十日に双葉町中野地区に開館する県のアーカイブ(記録庫)拠点施設「東日本大震災・原子力災害伝承館」は資料の収集や展示などにとどまらず、調査・研究、研修の各事業を担う。防災専門の研究者を育成し、複合災害を経験して得た知見を後世に引き継ぐ。伝承館を拠点に、記憶や教訓の継承に向けた風化防止対策を本格化させる。

 伝承館を管理・運営する福島イノベーション・コースト構想推進機構は二〇二〇(令和二)年度、県内外の防災やリスクコミュニケーションに関する研究に携わる大学教授らを非常勤の上級研究員に迎えた。立命館大衣笠総合研究機構の開沼博准教授(36)=いわき市出身=、福井大付属国際原子力工学研究所原子力防災・危機管理部門の安田仲宏教授(51)、東京大大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也准教授(45)の三氏で、いずれも震災と原発事故後の福島に深く関わり、専門分野を生かした研究を進めてきた。

 伝承館で取り組む調査・研究事業のテーマは【表】の通り。三氏は具体的な調査・研究の手法などを検討している。

 同機構は来年四月以降、大学院の博士課程修了者らを常勤の研究員として採用する。上級研究員の指導の下で実践的な防災の専門家として養成する。複合災害への対応や復興への歩みを体系化し、より具体的な教訓を抽出する狙いがある。

 研修事業を通し、こうした研究の成果を地域と共有し、防災力の底上げにつなげる。研究員が自治体や企業向けの研修会で講師を務め、危機管理の在り方などを伝える。

 学校や一般団体向けには、伝承館周辺を巡るフィールドワークを繰り広げる。福島第一原発の北約五キロに位置し、周辺に除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設や特定復興再生拠点区域(復興拠点)がある伝承館の立地を最大限に生かす。

 未曽有の被害をもたらした「3・11」から十年目となった。伝承館は被災地の現状や、悲惨な経験を繰り返さない決意を伝え続ける大きな役割を担っている。


 【調査・研究事業のテーマ】

▼放射線影響への対応

▼複合災害におけるコミュニケー ション

▼複合災害における行政対応

▼地域コミュニティーの崩壊・再 生と住民意識の変遷

▼地域産業の崩壊・再生と産業構 造の変遷